「大学卒業≒失業」になってしまう現実

 出生数の大幅な減少は、中国の政治や経済などの社会環境、そしてコロナ以降の中国社会に生じたさまざまな変化をそのまま映し出しているのではないだろうか。昨年『中国の過酷な受験戦争を勝ち抜いた若者が「寝そべり族」になってしまう理由』で書いたように、中国経済の減速により、就職難や収入の減少、失業率の上昇など、若者にとって生活が容易ではなくなった。今年はその時より事態がさらに厳しくなっている。

 中国教育部は、今年の大学新卒者の数が1076万人で、史上初めて1000万人を突破したと発表した。また、国の恒例の失業率の発表では、7月の16~24歳の失業率は19.9%、統計開始以来、最も高い数値だという。約5人に1人が失業していることになるが、中国のシンクタンクは、今年の大卒者の実際の就業率は2割に届かなかったとレポートしている。

「卒業=ほぼ失業」となってしまうため、職を探す若者があふれている。特に農村部から都市部の大学に進学して卒業した若者は、都会に留まり仕事を探し続けるか、田舎に帰るのかとさまよっている。当座の収入を得るため、個人タクシー運転手やデリバリー配達員になる若者も少なくない。

 中国国家衛生健康委員会の幹部は、先日、ロイター通信社の取材に、「出生人口の減少は、不動産価格の上昇や育児費用の高騰などの原因であるほか、コロナが大きな要因だ」と述べた。

 2020年から始まった新型肺炎コロナウイルスの感染拡大に対し、中国政府は一貫して徹底的に「ゼロコロナ」政策を堅持してきた。今年3月末には、中国の最大の経済都市である上海で約2カ月間にわたるロックダウン(都市封鎖)が実施された。全国各地で断続的に行われているロックダウンや大規模なPCR検査などが、中国経済に大きな影を落としていることは、すでにさまざまな経済指標で明らかになっている。

ゼロコロナは、ゼロ結婚、ゼロ出生を生み出した

 若者の間で急速に広がっているのは、現状に対しての不満や悲しみ、さらには復讐なども絡んだ複雑な感情である。ちまたでは「ゼロコロナは、ゼロ結婚、ゼロ出生という結果を生み出している」と揶揄する声も多い。若者は総じて結婚や出産について、悲観的なムードになっている。

「自分すら養えないのに、どうやって家庭を築くというのだ?」
「子どもを産んだら、どういう状況が待ち受けているのか。果たして子どもを幸せにすることができるのか?」

 といったコメントがSNSにはあふれている。

 筆者が仕事でつながっている中国国内の関係者は、20〜30代の人が多い。数年前までは、久しぶりに連絡すると「もう前の会社にはいないです、今は○○に移りました」ということが非常に多かった。中国のことわざ「人往高処走,水往低処流」(人間はより高いところを目指し、水は低い方へ流れるものだという意味)そのままに、よりよいキャリアや給料を求めて、転職するのが当たり前だったからだ。ところがこの2年ほどで驚くほど転職する人が減った。