技術と農業の連携を目指す
世界最大のプラットフォーム

 前述のLa Ferme Digitalに加え、アグリテック・エコシステムに新風を巻き起こしているのが、2019年12月設立の民間高等教育機関HECTAR(エクタール)です。世界最大の農業イノベーション創出に特化したキャンパスであり、エコシステムの開発プラットフォームです。

HECTARのメイン棟HECTARのメイン棟(HECTAR提供)

 同機関の拠点は、パリ近郊シュブルーズ渓谷自然公園にある18世紀建立の城(ドメーヌ・ド・ラ・ボワジエール、総面積600ヘクタール)です。次の2人の出資者が1840万ユーロ(約26億6000万円、以下出資比率)でこのドメーヌを購入し、総投資額2350万ユーロ(約33億9000万円)で開設したものです。

・グザビエ・ニエル氏(49%、著名連続起業家、仏4大携帯キャリアの一つフリー創業者、世界最大のインキュベーション施設STATION Fの創立者、ル・モンド紙株主)
・オードレ・ブロロー氏(51%、マクロン大統領の元農業担当顧問、ワイン業界のロビー団体ヴァン・ド・ソシエテの元総代表)

 広大でしかも環境への配慮が徹底された敷地内には(再生資源活用、循環型経済、ゼロプラスティック、省エネ、二酸化炭素排出量制限、生物多様性の追求等)、次の施設が整えられています。

・教育センター:年間300人(将来は2000人)の次世代の農業経営者に向けた、起業、持続可能な農業の経営、人工知能などの技術教育の実施
・有機農業に移行中の農園、森林、雑穀畑からなるパイロットファーム:再生農業、保全型有機農法による作物栽培や家畜混合システムの実施など(250ヘクタール)
・家畜用農場:乳製品大手ダノンとの実験酪農など(60ヘクタール)
・アグリテック・フードテック企業に向けたインキュベーション施設:農業従事者サポート技術、グリーン農業転換支援技術、代替食料等の分野のスタートアップ企業を中心に、150人のコワーキングスペース、50の実験室、15の会議室