もしも、日本で
BYDのEVがヒットしたら?

 もしBYDのEVが日本でヒットしたら、ガラパゴス化していた日本がEVの本格化へ大きくかじを切る可能性が出てくる。

 その結果、トヨタが、まだまだハイブリッド車で儲け続けたいがために編み出した苦肉の策「全方位戦略」を捨て、本物のEVシフトに転換するかもしれない。

 トヨタが販売を開始したEV「bZ4X」は、価格が600万円と高いことを前面に出したくなかったのか、サブスクリプションでの販売だけと腰が引けていた。しかも、発売後いきなりリコール問題を引き起こした。これではEVへのトヨタの本気度は見えてこない。

 もしBYDが300万~400万円台前半の価格ゾーンに打って出て、年間で3万台とか5万台売れるようになったら、トヨタもEVに本腰を入れざるを得なくなるだろう。

 さらに、日本人の中国製品アレルギーが一掃されるきっかけにもなる可能性がある。

中国EV「BYD」は日本市場に食い込めるか?成否を決める3大ポイントとは本記事の著者、竹内一正氏の近著『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)発売中!

 いまだに、日本の消費者には中国製アレルギーを持つ人が一定数いるが、その一方で、中国製だろうと、どこの国の製品だろうと、良ければ気にせず使うという人たちは増えている。

 私たちの周りを見ても、iPhoneは中国で生産しているし、パナソニックなど日本の家電メーカーの製品もメード・イン・チャイナが大半だ。すでに中国では、BYDはトヨタより有名なブランドになっている。BYDが日本人の中国製アレルギーを変える転機となるかもしれない。

 BYDを契機として、EVに乗る人が増えていけば、次の問題となるのは充電ステーションだ。EVと充電ステーションは卵とニワトリの関係だが、日本の充電ステーション数は増えていないどころか、老朽化し減っている残念な状況だ。

 EV補助金制度の拡充はもちろんだが、充電ステーションの拡大にカネと知恵を使うことが日本政府に強く求められる。

 調査会社のCounterpoint Technology Market Researchは今年5月に、2030年の世界の乗用車販売でのEV比率の予測を報告した。それによると、EV比率は中国で約54%、欧州で約43%だった一方で、日本は20%弱と大きく水をあけられていた。

 BYDのEVは、眠れる日本のEV市場を目覚めさせる黒船となるだろうか。

(経営コンサルタント 竹内一正)