総選挙での大勝を受けて成立した安倍内閣は、矢継ぎ早に積極的な経済政策を打ち出した。このスピード感自体は評価されていい。いわゆるアベノミクスの即断実行である。アベノミクスは、一般には「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢から構成される政策パッケージであると目されている。
日銀はルビコン川を渡った
1月22日、政府・日銀は、デフレ脱却と経済成長に向けて一層の連携を強めるため、共同声明を発表した。その眼目は、「物価上昇率目標として2%を明記し、金融緩和を続ける」というところにある。多くの識者が指摘するように、政府・日銀が目標とする2%の消費者物価上昇率は、とてつもなく高いハードルである。バルブ期の1980年代後半でも、わが国の消費者物価上昇率は、平均1.3%でしかなかったのだ。
そうであれば、今回の措置は、「半永久的に」金融緩和を継続すると政府・日銀が宣言したに等しい。容易なことでは達成できない目標であるということは、加えて量的緩和が恐らく「無制限に拡大」していくということになる。日銀は、人跡未踏の領域に向けて、ルビコン川を渡ったのである。
わが国のこれまでの経験では、ゼロ金利のもとでいくら量的緩和を続けても、物価は上がらなかった。ここ数年来の欧米の経験でも、結果は似たり寄ったりである。経済学者の間では、概して、アベノミクス、中でも金融政策については、評価が低い。欧米の評価も、どちらかと言えば厳しいものが多いように見受けられる。
しかし、ルビコンを渡る前ならいざ知らず、渡り切った後でアベノミクスを批判することにいかほどの実際的な意味があるのだろう。総括は後世の経済史家に委ねるとして、今、為すべきことは、未踏の領域に踏み込んだ日銀の営為を、通貨への信認が棄損されないかどうか注意深く見守り、その効果を丹念に検証していくことに尽きるのではないか。わが国の金融政策は、理論闘争の段階から実績検証のステージに移ったように思われる。