写真:エキマトペ写真:富士通提供

今年6月、JR上野駅の1・2番線ホームに、ある装置が設置された。その名も「エキマトペ」。電車の走行音、ブレーキ音、発車を知らせるベルの音など、駅で生まれるさまざまな“音”を、擬音語や擬態語の「オノマトペ」で表現し、画面に表示させる装置だ。ほかにも、アナウンスは字幕と手話を用いて視覚化される。駅構内の“音”を可視化した理由とは。開発者に話を聞いた。(清談社 鶉野珠子)

「駅の音」をAIが認識して
異なる字体やリズムで表示

 今秋、フジテレビ木曜劇場の枠で放送がスタートした『silent』が大きな盛り上がりを見せている。見逃し配信での再生数が歴代最高を記録し、放送時には毎週ツイッターのトレンドで1位になるなど、かなり注目度の高い作品だ。

 物語は、川口春奈さん演じる主人公が、Snow Man・目黒蓮さん演じる元恋人に“偶然”再会するところから始まる。実は元恋人は主人公と別れたあとに聴力をほとんど失っており、主人公はこの再会をきっかけに手話を習い始めるなど、『聞こえない世界』で生きる彼と向き合っていくというストーリーだ。

「ドラマもそうですが、“偶然”以外で聴者が聴覚障がい者と出会う場面は、日常生活のなかでは多くありません。しかし、そうした出会いがなければ、『聞こえない世界』について考えたり、『聞こえない世界』で生きる人の思いに触れたりすることはまれですよね。聴覚障がい者との接点を増やすきっかけが作りたい。そんな思いを込めて開発したのが、この『エキマトペ』です」

 そう話すのは、富士通 未来社会&テクノロジー本部の本多達也氏。「エキマトペ」のプロジェクトリーダーだ。本多氏も、大学1年生のときに“偶然”耳の聞こえない人と出会ったことをきっかけに、聞こえない世界で生きる人に音を伝える方法を模索し始めたという。

「エキマトペ」は、駅にあふれる環境音やアナウンスなどの音を、オノマトペや手話を用いて表現し、画面に表示して視覚化する装置だ。プロジェクトチームには、富士通、東日本旅客鉄道(JR東日本)、大日本印刷(DNP)が名を連ねている。現在、JR上野駅の1・2番線ホームに設置されており、今年12月14日まで実証実験を行う予定だ。