「炎上している」とか「賛否の声が上がっている」といった言葉によって物事をひとまとめにしてしまうのではなく、具体的な内容を「批判」する行為が、メディアでもそれ以外の場でも、もっと広範になされる必要がある。

 そして繰り返すならば、それは必ずしも否定的な行為だとは限らない。賛意を示すのであれ、あるいは難点を指摘するのであれ、人々がともに問題を整理し、吟味し、理解を深め合っている場こそ、本来の意味で「批判」が行われている、建設的な議論の場なのである。

批判を実践するために必要なこと

 とはいえ、非難や攻撃とは違って、批判は決して簡単な行為ではなく、私自身も日々試行錯誤しているというのが実情だ。どうすれば的を射た批判を展開できるのかという以前に、相手との人間関係がネックになることも多い。というのも、批判をすれば、多少なりとも相手の気分を害したり傷つけたりすることは避けられないからである。だとすれば、批判は具体的にどう行うべきだろうか。

 批判する際には言い方に気をつける、というのはシンプルだが、しかし、まずもって重要なポイントだろう。たとえ有益な内容の指摘であっても、不必要にきつい言葉や口調で語られては、感情的にとても受け入れられなくなる。

 また、内容という面でまずい批判の典型は、相手の言葉尻だけを捕らえて自分の土俵(自分の専門分野、自分の経験など)に引きずり込み、その土俵上で相手を説き伏せる、というものだ。

 たとえば、「あなたはいま「無意識に…………」と仰ったが、認知科学的には「無意識」とはこれこれこういうものであるから、「無意識」の問題として捉えるのは不適当だ」という風にして切り捨てるだけでは、相手がひどく気分を害するのも当然だ。そして何より、こうしたやりとりでは、問題に対して互いに理解を深め合うことも、別の見方を知ったり新しい見方を生み出したりすることも難しい。

 逆に言えば、重要なのは相手の表現を尊重するということだ。具体的には、相手の言葉を十分なかたちで拾い上げ、それがどのような脈絡の下で発せられたのかをきちんと踏まえたうえで応答する、ということが必要だろう。