「日本におけるサッカーの存在を大きくしたい、という思いを常に強く持っていて、そのために選手、FIFAマスターで学んだ時期、指導者、コーチ、そして監督とさまざまな立場で貢献しようと考えてきました。まだS級ライセンスを持っているので、それだけに監督やコーチを全くしないとは思わないですし、いろいろな可能性を持っておきたいと思っていますけど、いまは自分の立場に集中して、自分が持っているもので貢献していきたい。このぐらいの答えでいいでしょうか」

巨大組織で
いかにリーダーシップを発揮するか

 昨春に理事に就任して初めて、JFAは全部で19もの部署に分かれていて、250人を超える職員が勤務し、年間で300億円近い予算が動く公益財団法人だと知った。まずはJFA全体を把握し、巨大な組織を動かす力を身につけながら、自らのカラーを打ち出していく形になるだろう。

「自分自身、選手だった期間を含めてJFAという組織を外側から見てきて、どこかちょっと遠いところにあると思っていました。さらにJFAのなかにいると、外部の人たちも同じようにわかってくれるだろう、といった感覚に陥ってしまうようなところもちょっとある。JFAが外からどのように見られているのかが、ちょっと感じられなくなっているといいますか」

 こう語った宮本氏は、専務理事就任とともにインスタグラム(@tsuneyasumiyamoto_official)を開設。JFAという組織が、そのなかでナンバー3として何をやっているのかを自身のプライベートを含めて発信しながら、双方向のコミュニケーションを築いていきたいと奮闘している。

 組織内へ目を向ければ職員だけでなく、ともにJFA副会長に名を連ねるJリーグの野々村芳和チェアマン、WEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)の髙田春奈チェアに加えて、さらに47を数える都道府県サッカー協会ともコミュニケーションを密にしていかなければいけない。

 現役時代はガンバやそのアカデミー、最後の所属クラブとなったヴィッセル神戸、年代別を含めた日本代表とほぼすべてでキャプテンを拝命。さまざまな場面で卓越したリーダーシップを発揮してきた宮本氏は、専務理事に求められるリーダーシップは「全然違いますね」と思わず苦笑する。

「専務理事としていきなり須原さんと同じことができるか、というのはちょっと違うと思っているし、いろいろな人の力を借りながら、自分なりのバックグラウンドを生かしてやっていきたい。組織としてはサッカーに対して熱い思いを持っている職員が多いし、ほぼ全員が中途採用で入ってきている関係もあって、さまざまなビジネスのバックグラウンドも持っている。強化部や競技運営部、チームコミュニケーション部などさまざまな部署の間で横のコミュニケーションも発揮していくことで、組織としてのパフォーマンスもよりよくなっていくのでは、という課題意識も持ってやっていきたい」

 宮本氏が自身のキャリアを例えたスティーブ・ジョブズの「点と点をつなぐ」は、将来を見越して知識や経験などをつないでいく、という意味ではない。さまざまなことが将来的に線となってつながり、自らを高めていくと信じて取り組んでほしいという人生訓やエールが込められていた。

 選手としての輝かしい実績。Jリーガー出身の日本人として初めて入学し、そして修了したFIFAマスターでの充実した日々。そして、成功と挫折を経験した指導者時代。そこへJFA専務理事の仕事が加わった結果として生まれる、未来へとつながる線を誰よりも宮本氏が楽しみにしている。