アドバイスの「正しさ」を
証明するのは難しい

 そして三つ目の問題は本当に正しくアドバイスできるのかどうか?ということである。

 例えば家計管理や社会保険、税金といった分野の相談であれば、ほとんどの場合、答えは明らかで、正しい答えは存在するだろうが、資産運用、なかんずく投資においてはどんな場合でも正解はひとつではない。

 もし投資において誰に対しても同じ正しい答えがあると考えるFPがいるとすれば、失礼ながら運用のことは何もわかっていない人だろう。

 投資の判断は最終的には顧客が自分のリスク許容度や運用のポリシーを考えて自分で判断するしかない。そのために参考になるアドバイスをするのがアドバイザーの役割である。個別具体的な銘柄にまで及ぶのであれば、投資助言業の登録が必要となるので、いささかハードルも高くなる。

 このように資産運用アドバイスといってもそう簡単にはいかないと筆者は考えるが、必ずしも見通しが暗いというわけでもない。実はわが国では2002年以降、800万人にも及ぶ給与所得者に対していわゆる「投資教育」が実施されてきているのだ。

 それは企業型確定拠出年金であり、この制度を規定する法律では22条において実施する事業主の責務として従業員に対する投資教育が義務化されている。したがって、これをやらないと法律違反になるため、通常は事業主が投資教育の場を設けている。

 企業型確定拠出年金はスタートして20年以上たつが、少しずつ投資教育の成果は表れてきており、将来に向けて適切な分散投資を実行している加入者は増えてきている。「資産所得倍増プラン」における7本柱の4番目においても「雇用者に対する資産形成の強化」として企業型確定拠出年金への支援も記載されている。

 これはよく言われることだが、現在2000兆円にも及ぶ個人金融資産の内、有価証券が15%、300兆円程度しかないとされるが、これはあくまでも個人の直接投資に限っての話であり、別途年金基金や保険を通じて有価証券に向かっているお金は500兆円以上もある。もちろんこれによってすぐに貯蓄から投資への流れが加速するというのは難しいだろうが、今までも20年かけて少しずつ表面には見えないところで給与所得者の金融リテラシーは上がってきているのだ。

 投資の王道は長期投資だといわれるが、投資教育も即効性のある施策はそれほど容易ではない。こちらも「長期投資教育」が必要なのではないだろうか。

(経済コラムニスト 大江英樹)