1990年代にIBMを立て直したルイス・ガースナーは、彼の著書『巨像も踊る』(日本経済新聞出版社)で企業文化について次のように書いている。

「IBMに来る以前に聞かれればたぶん、企業文化は企業を成り立たせ成功に導く要因のひとつだと答えただろう。……IBMでの約十年間に、私は企業文化が経営のひとつの側面などではないことを理解するようになった。一つの側面ではなく、経営そのものなのだ」

 1992年、約50億ドルという巨額の赤字を出し、瀕死の状態にあったIBM。ガースナーは1993年にCEOに就任し、それからわずか5年で60億ドル強もの利益を計上するまでに復活させた。一体、彼は何をやったのだろうか?

 ガースナーは、メインフレームの箱売りに依存していたビジネスを、ITソリューションと多様なエンジニアによる問題解決の提供へと、ビジネスモデルを大きく転換した。ビジネスモデルの転換に加え、コスト削減や組織変更など、さまざまな取り組みも実行。IBMが「e-business」という有名なコンセプトを作り、積極的なマーケティングを実施していたのも、このころである。

 しかし、この改革は、簡単にできたわけではない。新しい戦略がいくら明確であっても、人は簡単に変われるわけではない。ましてや、複雑な組織階層、既得権益の横行、IBM語に代表されるような、閉鎖的な企業文化をもっていた巨大企業である。そして、この難しい課題に対するガースナーの取り組みは、まさにカルチャー・トランスフォーメーションであった。

 もちろん、当時はカルチャー・トランスフォーメーションの方法論などまだ確立しておらず、試行錯誤を繰り返しながらの取り組みであったはずだ。しかし、今から振り返ってみても、彼がやったことは、非常に理にかなっており、参考になる面が多い。