セブン&アイが重視する「三方よし」
リストラは容易ではない

 一方、セブン&アイは、バリューアクトなどの株主だけでなく、消費者(顧客)、従業員、取引先の事業者、地域社会などより広範な利害関係者と、長期の関係を構築し、成長を目指している。バリューアクトの重視する株主資本主義と対比させて言うなら、セブン&アイはステークホルダー資本主義の価値観に立脚している。

 それは、「企業は社会の公器」といった価値観の徹底でもある。伝統的にわが国の企業経営では、「売り手よし、買い手よし、世間よし」(三方よし、近江商人の心得)と言われるように、商いを行う結果として利益が出るだけでなく、社会に貢献することが良いとされる。

 そうした価値観の一つが、雇用の維持である。長い間、わが国では新卒一括採用、年功序列、終身雇用の雇用慣行が続いた。経済成長率が高い環境であれば、そうした慣行が大きな問題になることは少なかった。しかし、1990年はじめにバブルが崩壊して以降、経済成長率は低下し、従来の雇用慣行の維持は難しくなっている。

 だがそれでも、雇用の安定を重視する向きは根強い。米国企業のように収益が伸び悩むなどした場合にリストラを敢行して業績を守ることは、わが国企業にとっては容易ではない。

 こうした背景がありながらも、セブン&アイ経営陣はそごう・西武の売却を進め、総合スーパーの店舗閉鎖計画や衣料品事業の撤退も公表した。

 コンビニ事業も順風満帆というわけでもない。一例として19年、大阪府にあったセブン=イレブンの店舗が人手不足を理由に深夜営業をやめたところ、本部側が同店オーナーに対してフランチャイズ契約を解除する騒動に発展した。この件を発端に、コンビニ業界の人手不足や24時間営業の在り方が、社会問題にもなった。