過去の成功体験に縛られていると
モノ言う株主に振り回されるリスク

 セブン&アイ経営陣は、スーパーとコンビニに共通する要素である食品分野を強化することで、収益性を高める戦略だ。コンビニ以外の領域では資産の売却などを進め、中核分野により多くの経営資源を再配分する方針である。

 一方、バリューアクトからすると、この戦略は「踏み込み不足」に映ったようだ。5月に開かれたセブン&アイの株主総会でバリューアクトは、井阪隆一社長の交代を求めた。この提案は否決されたものの、両者の見解の相違は明らか。こうした状況はまだ続くだろう。

 それでは、他の株主の意向はどうだろうか。現時点で、セブン&アイの株主の過半数は、慎重に構造改革を進めつつ食品事業を強化し、スーパーの収益性改善とコンビニの成長を目指す現経営陣の考えを支持している。

 だからセブン&アイ経営陣は、不採算店舗の閉鎖などを加速し、早急に収益性の向上につなげなければならない。

 さもなければ、バリューアクトのみならず、他の株主までも経営陣の戦略に対する不満を強めるだろう。特に、米国の物価が高止まりしていることは軽視できない。当面、米国では物価が2%を上回る状況が続きそうだ。FRB(米連邦準備制度理事会)による金融引き締めは長引き、(今すぐではないにせよ)世界的に株価が下落するリスクは高まっている。

 世界的に景気が後退すれば、消費者心理は冷え込むに違いない。セブン&アイの業績が悪化する可能性も高まり、構造改革の推進が難しくなるかもしれない。その場合、経営陣と物言う株主との対話、主張の食い違いの解消は、これまで以上に困難を極めるだろう。

 わが国の企業に求められることは、自社の価値観を重視しつつも、株主が要求する収益率を実現する力を高めることだ。過去の成功体験に縛られて変革が遅れていると、モノ言う株主が株を取得し、利害調整がいっそう難しくなる可能性がある。セブン&アイはまさに、こうした事例となったわけだ。同社の経営陣がどれだけ改革を加速し、モノ言う株主との対話を進められるか、目が離せない。