世界的なインフレと金の価値の関係

 22年の年初から23年9月頭にかけて、ニューヨーク市場で取引される金の先物価格は約8%上昇した。23年5月には一時、1トロイオンス当たり2000ドルを上回るなど、価格上昇の勢いが強まる場面も。米国以外の国でも金の価格は上がってきた。

 半導体など先端分野での米中対立、コロナ禍の発生による米国などでの財政出動、ウクライナ紛争など地政学リスクの高まりなど複合的な要素によって、世界的にインフレが進み、その影響を受けた格好だ。

 22年6月、米国の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%上昇し、約40年ぶりの高インフレ環境が出現した。さらに、米国よりもインフレ圧力が強かったのがユーロ圏だ。ウクライナ紛争の発生によって一時、天然ガスの価格が急騰した。世界全体でコスト増を価格転嫁せざるを得なくなる企業は増えた。

 国ごとに違いはあったものの、物価上昇は個人消費を圧迫し、景気の先行き懸念が高まったことで通貨の価値は減少した。22年から直近までの外国為替市場の推移を確認すると、ユーロや英ポンド、円、カナダドル、韓国のウォンなどの通貨は米ドルに対して下落している。

 一方、金の価値は一定だ。通貨の価値が下落する分、金の価格は押し上げられる。米ドル以外の通貨で見た金の価格は、理論上、対ドル為替レートの下落率の分だけ高くなる。そのため、ユーロなどを基準にして計測した金価格の上昇率は、米ドル建ての上昇率を上回った。

 そうした中でも、円建て金価格の上昇は目立つ。米国やユーロ圏で金融引き締めが進む一方、わが国で日本銀行は異次元の金融緩和を維持した。日銀はイールドカーブコントロール政策を段階的に修正して長期金利の上限を引き上げたが、マイナス金利政策は継続している。内外の金利差は拡大して、円売り圧力が強まった。