金価格の今後の展開はインフレ次第

 今後の展開として、いつまでも金の価格が一本調子で上昇することは考えにくい。いずれ価格上昇の勢いは収まるだろう。米欧でインフレ懸念が後退しつつあることも注視すべきだ。金融引き締め政策の効果が表れ始めたと言っても良い。インフレが収まると、基本的に金に対する需要は一服する可能性がある。

 7月、米国の消費者物価指数の上昇率は前年同月比3.2%だった。8月の雇用統計では、非農業部門の雇用者数が18万7000人増に鈍化し、失業率は3.8%に上昇した。徐々にではあるが、雇用の活況な勢いは落ち着きだしている。

 この傾向が続くと、米国経済の過熱感も解消に向かうだろう。労働市場のタイトさは緩み、景気が減速するとともに個人消費の勢いも弱まる展開が想定できる。それに伴って、物価も緩やかに下落する可能性はある。理論的に考えると、物価の安定によってドルの価値は幾分か持ち直すだろう。となると世界的に金の価格に下押し圧力がかかりやすくなる。

 ただ一方で、インフレが収まらないケースも考えられる。懸念材料の一つは原油価格だ。サウジアラビアやロシアが減産を延長し、原油需要が引き締まるとの観測を背景に、WTI原油先物価格は上昇している。この流れが鮮明になれば、米国でガソリン価格が上昇し、天然ガスやパーム油などの価格にも上昇圧力がかかりやすくなり、インフレ懸念が再燃するだろう。

 ウクライナ情勢の緊迫化など地政学リスクも軽視できない。仮に、ウクライナでの情勢が一段と緊迫すると、穀物や肥料などの供給が減少するとの懸念は高まるはずだ。そして、それは世界的なコモディティー(商品)価格上昇のきっかけにもなり得る。この場合も、世界的にインフレが再燃するかもしれない。

 改めて、金価格の今後の展開は、世界経済のインフレがどう変化するかが重要な視座になるはずだ。