地方にクラフトビールの醸造所が続々誕生、なぜ移住者でも成功できるかビール作りに欠かせない醸造の設備 Photo by Satoshi Tomokiyo

今年、全国のマイクロブルワリー(小規模なビール醸造所)の数は、ついに700を突破した。これは10年前の3.5倍と言われ、いまもなお、新たなブルワリーが続々と各地に誕生している。「Nobara Homestead Brewery」も、そんな新規参入組のひとつ。東京で暮らしていた一家が、なぜ地縁のない長野県・青木村でビールづくりを始めたのか。その背景の物語に迫る。(フリーライター&エディター 友清哲)

夫婦の将来の夢が
クラフトビール作りに着地

 東京で暮らしていた中村さん一家が、長野県の青木村に移住したのは、2021年6月のことである。

 夫の圭佑さんは群馬県の出身。大学卒業後、デザイン会社に勤務し、フリーランスのデザイナーとして独立したのが2018年のこと。妻の玲子さんは栃木県の出身。大学卒業後、いくつかの会社を経て、現在は外資系のブランドコンサルティング会社に籍を置いている。

 互いに大の酒好きであったことから、都内の酒場で導かれるように出会った2人。とくにクラフトビールに傾倒していた圭佑さんの影響から、ついには揃ってビール醸造のカリキュラムを受講するまでになったという。

 デザイナーの夫、ブランドコンサル業の妻の組み合わせとなれば、いつか夫婦で新たな商材を立ち上げたいというのは、当然の選択肢。中村さん夫妻の場合、それがクラフトビールだったわけだ。

「日頃仕事で扱っているプロダクトデザインと違い、ビールは口に入れて味わってもらえるものですからね。自分がつくったものを街のみんなが飲んでくれて、それがコミュニティの潤滑油になるなら、そんなに面白いことはないだろうと、ずっと憧れていました」

 こう語る圭佑さん。ブルワリーの立ち上げは、酒場で出会った2人らしい夢と言える。