「コイツを殴っていいか?」クレーマーが駅員の腹にドスン!…思わず帽子を叩きつけた屈辱の日写真はイメージです Photo:PIXTA

病と闘う「知の巨人」佐藤優さんが、京大法学部出身、JR西日本に就職し駅員や車掌を経験したこともある異色の主治医・片岡浩史さんと語り尽くします。今回は、片岡さんのJR西日本時代の経験【後編】です。
※この記事は、佐藤優、片岡浩史『教養としての「病」』(集英社インターナショナル新書)から一部を抜粋・再編集したものです。

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「こいつを殴っていいか」

片岡浩史 クレーム的なことで今でもときどき思い出すのは、新幹線の改札口にいたときの出来事です。ある日、何かの理由で新幹線が遅れたことがありました。そういうときは新幹線から乗り継ぐ特急の指定席券を改めて取り直す必要が出てきます。

佐藤優 新幹線が遅れたときに、よくそういう車内アナウンスを聞きます。

片岡 そういう場合はいったん乗換駅の「みどりの窓口」などに並んでいただくわけですが、場合によっては50~60人のお客さんがずらりと並びます。

佐藤 それは今でも同じですね。

片岡 そのときに私が「みなさん、こちらに並んでください」と言ったら、1人のお客さんが「お前が並べ」と言ったんです。「遅れたのはお前たちのせいなんだから、こちらが並ぶ筋合いがない」というわけでしょうが、1人のお客さんの代わりに私が並ぶわけにはいきませんよね。基本的に、駅員というのはお客さんみんなのために仕事をするのですから。

 でも、当時はまだ入社早々だったので、隣にいたベテラン駅員に「どうしましょう」と聞いたんですよ。そうしたら「並びなさい」という感じでうなずいたんです。おそらくそのベテラン駅員には「お客さんが第一だ」という発想があったのだと思うんです。当時のJRでは、とにかく顧客サービスをしっかりしようということがつねにありました。

佐藤 旧国鉄時代、国鉄の駅員は「不親切だ」とか「態度が横柄(おうへい)だ」ということがよく言われていました。国鉄民営化は1987年で、片岡先生が就職したのが94年ですから、民営化から10年も経っていません。必要以上に「お客様第一」という考えに振れていた職員もいたかもしれませんね。それで先生はお客さんの代わりに並んだわけですか。

片岡 はい。30~40人の行列の最後尾に並んで、窓口で指定券を取り直して、そのお客さんに切符を渡したら、またビックリするようなことを言われたんです。

「俺は窓側だったのに通路側になっている」と。あまりにもひどいと思いましたが、さらにその人が何を言ったかというと、私の傍(かたわ)らにいたベテラン駅員に「こいつを殴っていいか」と聞いたんです。ベテラン駅員は、それも止めませんでした。それで私は腹を「ドスン!」と殴られて、そのお客さんは気を収めて帰っていきました。

 私は自分で言うのも変ですけれども、どちらかと言うと品行方正な人間でした。しかし、そのときはさすがに腹が立って、「ちょっと下がります」と言って改札業務を放棄して駅員室に行って、帽子を床に叩きつけてしまいました。