そういう思い込みに陥ることを防ぐのが、「かもしれない」という口ぐせです。

 否定に「かも」をつけ足すことで、再解釈の余地が生まれます。他の可能性もあることを意識できるようになります。そうなれば、あなたの意識は、自然と行き止まりの道を迂回する方法を探しはじめます。

「この方法はムリだった。だけど、ほかの方法があるかもしれない」「これはできなかった。だけど、ほかにできることがあるかもしれない」と。これは、心理療法の現場で使われている「脱フュージョン」というテクニックです。

 アメリカの臨床心理学者、スティーブン・ヘイズによって提唱されたアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)から派生した考え方で、ネガティブな感情と距離をとって、負のループに陥りにくくする手法です。

 本来「フュージョン」とは、「融合」「混ざり合う」といった意味の単語。そこに「脱」をつけて、「混ざり合った感情から、ネガティブな感情を切り離す」という意味が込められています。

 ここで取り上げた「かもしれない」をつけ足す方法のほかにも、「ネガティブな言葉は歌を歌うように、メロディーをつけて言う」とか、漫画のような吹きだしがあるとイメージして思考を俯瞰してみるとか、さまざまなやり方があります。

 いずれの方法も、「ダメだ」というネガティブな感情だけに頭を占拠されず、別の要素を入れたり、第三者目線を取り入れたりして、マイナス感情と距離をとることに狙いがあります。

 私たちが何よりも避けるべきことは、通行止めの看板を目の前にして「もう終わりだ」と思い込むことです。

 大丈夫。右折してもいいし、左折してもいいんです。ときにはバックしたっていい。あるいは、通行止めの看板は幻で、そのまま直進すれば、道はちゃんと続いているかもしれません。

 いつだって「ほかのルートの可能性もある」とか、「行き止まりは一時的なもの」と考えられるこころが大切なのです。そのこころがあれば、「自分にはできる」「困難も切り抜けられる」という肯定的側面が見えてくるし、実際に克服を体験できれば、自己肯定感が勝手に高まっていきます。

 つい口に出てしまう否定語に、「かもしれない」でフタをする。否定語を否定語のまま終わらせないで、いくつもの可能性を持った言葉にチェンジする。その習慣をくり返していくだけで、やがて否定語自体が影を潜めるようになるでしょう。