伊藤忠が最初に直面するのは
「訴訟問題」

 5大リスクとは、(1)訴訟問題、(2)事業継続リスク、(3)レピュテーションリスク、(4)人と風土の問題、そして(5)買収価格です。それぞれ順番に検討していきたいと思います。

 まずは、(1)の訴訟問題から。

 これは、買収条件の問題です。ビッグモーターの創業家が訴訟問題も一緒に引き受けない限りは売却しないスタンスにあるのです。

 伊藤忠が乗り出す前も、ガリバーとオリックスが買収を検討したのですが、買収条件が合わずに断念しました。その際には事業だけ、つまり営業権と人員、店舗・工場などの資産のみを買い取り、損害賠償の支払いなどの簿外債務の整理は既存のビッグモーターに残したままにする営業譲渡方式を求めたのですが、それが通らなかったというのが断念の理由です。

 買収する側としては営業権だけ手に入れば都合がいいためそのような条件を提示したのですが、創業家としては破産リスクを抱えたくないわけです。

 伊藤忠が「訴訟問題を引き受ける」という条件までのむかどうかが、注目点です。ただこの事件、アメリカなら訴訟リスクがどれだけ膨らむかわからないぐらいの事件ですが、日本国内の事件なので賠償額は過去の事例などからある程度概算できます。

 さらに、伊藤忠の強力な弁護士軍団が相手になるとなれば、多少なりとも後ろ暗い気持ちのある損保ジャパンがきちんとは訴えづらくなるなど減額要素もありえます。

 そう考えると、訴訟の問題はむしろ大幅な減額の交渉材料として考えてもよいのかもしれません。

 仮に伊藤忠がこの条件をのみ、買収を成功させたとしましょう。すると、(2)の事業継続と(3)のレピュテーションリスクも一緒に抱えることになります。

 この二つの点で誤算が生まれた場合、今回の買収で伊藤忠が大損をする可能性が高まります。