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アマデウスたち

是枝裕和
「ある1人に語りかけるように」

週刊ダイヤモンド編集部
【第65回】 2009年2月6日
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是枝裕和
写真 加藤昌人

 「ある事実を起点に、人と人が出会い、動き出す関係性を描こうとしている」。ドキュメンタリー番組を撮っていた頃も、映画の脚本、監督を手がける現在も変わらない。

 劇場デビュー作『幻の光』は、自殺で夫を失くした、ある未亡人の喪失感とその受容を追うノンフィクションを制作した延長線上で、宮本輝の原作に出会い、生まれた。

 柳楽優弥がカンヌ映画祭で主演男優賞を最年少受賞して話題となった『誰も知らない』は、母親に置き去りにされた4人の子どもたちという、実際の事件がモチーフだ。

 「作家としての自己表現というより、コミュニケーションと位置づけて撮り続けてきた」。作品を通して語りかける相手は、いつも「具体的な1人」だ。

 初の時代劇『花よりもなほ』では、それは母だった。病床に伏せ、劇場に足を運べなかったが、「母はこういう映画がいちばん好きだろう、と思ってフィルムを回した」。

 そして、最新作『歩いても 歩いても』は、亡くなった母へのオマージュだ。子育てと家事に追われる人生を送ってきた老母、失業中の冴えない40男の息子、子連れで再婚した息子の嫁。誇張や抽象を排し、ありふれた日常の会話だけで、家族のある1日を綴った。ていねいに描かれる一人ひとりの心のひだは、それが虚構の世界であることを忘れさせるほどに、観る者のそれと重なり、眠らせていた感情を突き上げる。現実に生きる人間たちを撮り続けた真骨頂である。

(ジャーナリスト 田原 寛)

是枝裕和(Hirokazu Koreeda)●映画監督 1962年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。テレビマンユニオンで主にドキュメンタリー番組の演出を手がけた後、95年、初監督作『幻の光』でベネチア映画祭金のオゼッラ賞受賞。2作目の『ワンダフルライフ』は世界30ヵ国で公開。最新作『歩いても 歩いても』が公開中。

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