「就業時間は9時30分から17時30分までで、18時までに保育園のお迎えに行かなければならないのです。定時に会社を出るのは難しく、いつも保育園に着くのはギリギリになっていまいます。郊外に引っ越すことも考えましたが、私も夫も保育園のお迎えには間に合わず、そうかといって私が短時間勤務制度を利用すると、その分、手取りがカットされてしまうので、これ以上収入が減ると生活が成り立たない。どうにもならない状況なのです」(前出の女性)

悩みの種は「教育費」
親が稼ぐほど損をする国の制度

 不動産価格や物価の高騰に歯止めがかからない中、子育て世代を悩ませているものの一つが「教育費」だという。23年6月、日本生命が公表した6歳以下の子どもを持つ親、約8421人(男性3994人、女性4425人)を対象にしたインターネットアンケート『子育て現役世代の大規模調査』によると、子育て費用について「精神的な負担を感じる」と回答した人は全体で70.3%、世帯収入1000万円以上でも57.0%となった。

 親が稼ぐほど子どもが損する仕組みになっていると加藤氏が指摘するのは「所得制限」だ。

「国や自治体からの援助は必ずしも、子育てにかかるお金の負担が重くなるライフステージに沿って受け取れる仕組みではありません。例えば高校の授業料は国の無償化制度があり、全日制の公立高校であれば、授業料と同額の年11万8000円、私立では最大で年39万6000円が支給されます。しかし、専業主婦と高校生2人の会社員家庭で、年収の目安である950万円を超えると支給対象から外れてしまいます。子どもが私立高校に通っているケースではもっと厳しく、年収640万円までが支給対象となっています」(加藤氏)

 いち早く、所得制限の撤廃に舵を切ったのは東京都。来年度から都内の高校の授業料について、現在、設けられている補助の対象となる所得制限を撤廃し、私立と都立ともに実質無償化する方向で調整を進めている。さらに、親の所得によって学校選択が左右されないように、高校に加えて大学の授業料も所得制限の撤廃などで無償化する取り組みを全国的に行うことを12月8日、国に要望した。

「児童手当については、10月分(支給は12日)から所得制限が撤廃され、支給時期が高校生まで延長される予定です。『月に1万円や1万5000円の給付がなくなったとしても、世帯年収1000万円を超える家庭にとっては大したことがない』と思う人もいるでしょう。しかし、子どもが生まれてから高校卒業までの支給総額は240万円近くにもなります。大学でかかる費用の1〜2年分にあたりますので、これを国で準備するのか親が負担するのかは、大きな違いがあります。

 それでもなお、認可保育園の0~2歳保育料や国の奨学金など、所得が高いほど負担が大きい制度は少なくありません。仕事と子育ての両立に悩む共働きの家庭には、『苦労して働いても所得制限に引っかかってしまうくらいなら、妻の仕事をセーブして公的支援を受けたほうがいい』『時間的余裕を持ちながら子育てする方がいい』という選択をする夫婦も増えていく可能性があります」(加藤氏)