任天堂が賭けに出た。2012年12月にカナダ限定で発売した「Wii」の廉価版(「Wii mini」)を3月に入ってからドイツに続き、22日に英国でも売り出した。イタリア、スペイン、フランスでも順次投入する。

「Wii mini」は、Wii からインターネット接続と「ニンテンドー ゲームキューブ」のソフトも遊べるという機能を省いたもので、通常のWii 本体より4割も安い。3月21日時点でドイツのアマゾンでは99ユーロで売られていた。

 価格の安い旧型機が売れれば、Wiiはもちろん、新型ゲーム機「Wii U」とも客を食い合うことになるのは確実だ。

 任天堂側は、「欧州はWiiの普及スピードが遅く、成熟市場とはいいきれない。最終の刈り入れ期と位置付けて、miniを発売した」(幹部)としている。

 そのため、Wiiがすでに成熟期に入った日本や米国にはminiは投入しない予定だ。

 だが、業界関係者の見方はこうだ。「Wii Uがソフトの不足で振るわないため、既存の人気ソフトをフル活用し、売上げにつなげようとしている」

 これがあだになる恐れもある。 miniでは「マリオカート」などのWiiの人気ゲームが遊べるわけで、ユーザーからは「小ぶりでレッドのデザインもクールで、miniで十分」との声も上がっている。Wii Uは価格がminiの二倍もするため、こうなればユーザーのminiからWii Uへのシフトは進みにくくなる。さらには、miniに引きずられる形で、Wii Uの値下げ圧力が強まる可能性もある。

 任天堂が、このような負の循環に陥りかねない危険な賭けに出たのには二つの理由がある。一つ目は、ソニーやマイクロソフトが新型ゲーム機を発売する前に、Wiiのユーザー人口を増やしておきたいというものだ。

 もう一つは円安だ。任天堂は2013年第3四半期に為替差益で222億円強を計上し、東京商工リサーチの調べでは上場企業トップだった。海外売上高が8割近い任天堂にとって円安は追い風だ。「欧州の海外子会社が収益確保のためにminiの発売を決定した」(任天堂幹部)というが、円安だからこそ単価の低い製品を発売しやすかったともいえる。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)

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