デフレ脱却のプラス面とマイナス面

 現在、わが国は本格的にデフレから脱却する重要な局面を迎えている。それに伴い、経済にプラス面とマイナス面、両方の影響が出ている。

 短期的には、家計の負担が増加することによるマイナス面の影響が懸念される。食料品の価格や電気料金の上昇で、家計は旅行や外食などの支出を減らすことが想定される。所得水準が相対的に低いほどその傾向は顕著だろう。そうした結果、消費が伸び悩み、景気の本格的な回復が遅れることが懸念される。

 一方、長い目で見ると、デフレからの脱却によって景気回復の可能性は上がる。株式や不動産などの資産価格が上昇することへの期待も高まる。また、デジタル技術の導入や新商品開発などで企業の収益性が上がり、賃金上昇の持続性が高まれば個人消費は活発化するはずだ。

 安定した所得の基盤を持ち、不動産や金融資産などを“持つ者”のメリットは増す。資産価格の上昇は“持つ者”の支出意欲を高め、高額商品の売れ行きが伸びるチャンスを増やす。

 反対に、“持たざる者”にとっては、マイナス面の影響が増大する。特に、非正規雇用者など、賃金水準が低位の層にとって食料品や家賃の上昇は大きな痛手だ。

 4月からは高所得の高齢者の介護保険料が増えた。高齢化の進行により、家計の社会保険料負担は増加しており、その中で物価上昇が定着すると、これから社会に出る新卒者などの生活苦が増す懸念がある。

 インフレのマイナス面の影響が大きくならないよう、政府は、低所得層への経済的な支援や、社会保障制度の改革を強化することが必要だ。また、政策を駆使して、多くの国民が自律的に高所得を目指す環境を整備すべきである。それらが、わが国全体でインフレの経済環境に対応するために不可欠な要件だといえる。