日本人がおいしいと思うものは提供しない?

「ケンちゃんカレー」を手掛けるのは、恵島良太郎氏と吉田大祐氏が共同でオーナーを務めるKen Foods Kitchen Management Sdn. Bhd.(本社・クアラルンプール)。ライセンス元のGlobridge(本社・東京都)から店舗展開の権利を取得し、2018年にマレーシアで1号店を出店した。その後、コロナ禍に見舞われながらも急ピッチで出店を進め、今年4月現在で14店を展開中だ。

 メニュー開発を手掛けたのは吉田大祐氏で、訪日ムスリム向けのグルメアプリ「ハラルナビ」の代表を務める本宮郁土氏(前出の画像左下)とのコラボで実現した。ライセンス契約によるビジネス展開ではあるが、メニュー開発、食材、レシピなどは自由な枠組みの中で行うことができるという。そのメニュー開発について、マレーシア居住歴10年の吉田氏はこう語る。

「このメニューの開発は、日本人の自分がおいしいと感じるかどうかよりも、居住者であるマレーシア人が本当においしいと思うのかという視点で、試行錯誤を繰り返してきたものなんです」

 これまた驚きの発言である。日本人や日本企業は「日本のおいしいものを世界に伝えたい」という強い使命感で世界展開を目指してきたが、成功のカギというのは「“日本の押し売り”ではなく、現地に合わせること」にあるというわけなのだろうか。

 確かにクアラルンプールでは、マレー系の住民を中心に回転ずしの『スシキング』が人気だ。けれども、そのネタは独創性がありすぎて、江戸前ずしに慣れた日本人はまず足を運ぶことはないと言われている。在住の日本人の間でも「スシキングを日本食に入れるかどうかは極めて悩ましい」などといったコメントも聞かれるほどだ。しかし、こうした店こそが地元で大人気なのである。

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「ケンちゃんカレー」で共同オーナーを務める恵島氏は、カレー以外にも高級すし店やムスリム向けラーメン店の経営も行っている。ラーメンは鶏だしでハラル対応を行っている。価格は15MR(約450円)と屋台街並みの値段だ。

 一方、クアラルンプールのラーメン市場には、日本の大手資本の参入もあるが、平均38MR(約1140円)と、日本とほぼ同等の価格で出しているのが特徴だ。

「日本食はローカルフードより高いのが当たり前」――こうした発想でクアラルンプールに出店する日本食は少なくないし、筆者が長年住んでいた上海でもこうしたマーケティングは当たり前だった。

 しかしながら、今回クアラルンプールのショッピングモールに出店する日本食の店をくまなく見て回ったが、「日系飲食店の多くが苦戦しているのではないか」という印象を強く持った。