「なんちゃって異国料理」が、興味の入り口になる

 恵島氏は、ローアングルなマーケティングについてこう語っている。

「ラーメンは1杯15MR(約450円)、『なんでそんなに安いの』と驚かれます。テナント料は高いですが、コストダウンできるところはある。それなら喜ばれる価格でたくさんのお客さんに来てもらった方がいい。値段はマーケットが決めるんです。消費者が食べたい値段で出すことです」

 ちなみに、吉田氏によれば、2019年に、『ケンちゃんカレー』は、KLCC地区(クアラルンプールの中心部)のショッピングモール『スリア』のフードコートで売上金額第2位になったという。「現在も4位と上位にあり、この店舗では1日の営業が1400杯に達したときもありました」とのことだ。クアラルンプールは、食の激戦市場だが、あえてミドルとその下の層を狙ったメニュー開発と価格設定が功を奏したといえる。

 しかし、その戦法を取れる企業は一握りのようだ。「成功する会社は、意思決定権者を現地に置いています。しかし、進出企業は多くの場合、決定権を持つ責任者を現地に置いていない傾向が見て取れるのです」と恵島氏は言う。彼自身もマレーシアに移住して12年になる。

 話を「なんちゃって日本食」に戻せば、私たち日本人にも思い当たるフシがある。クアラルンプールの高級日本料理店「金目鯛」の料理人・田中敏行氏は、イタリア滞在時の例を挙げて話す。

「ナポリタンはもともとイタリアにはないメニューです。たらこスパゲティもそうです。イタリアでボンゴレにキノコを入れて出したら、『こんなの邪道だ』とイタリア人から文句を言われました。でも、私たち日本人はこれを食べてイタリア料理に興味を持つようになったんです。入り口は『なんちゃって』でもいいんです」

 マレー系、華人系、インド系など多様な民族が住むマレーシア。互いの文化への寛容さを持つこの国で「なんちゃって日本食」にこれからどんなバリエーションが加わるのか…。これもひとつの街の見どころとなるだろう。