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アマデウスたち

大樋年雄
伝統に軸足を置いた自由と独創

週刊ダイヤモンド編集部
【第36回】 2008年7月4日
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大樋年雄
写真 加藤昌人

 第5代加賀藩主・前田綱紀侯が裏千家始祖である仙叟宗室(せんそうそうしつ)を茶道奉行として金沢に招いた際、同行したのが、京都で楽焼を学んだ長左衛門で、仙叟の指導の下に、この地に大樋焼を興した。それから約340年、血とともに名窯の匠が受け継がれてきた。

 子どもの頃、家業にはまったく興味がなかった。むしろ反発し、「家庭を顧みず創作に明け暮れる父の背中に、背中を向けていた」。高校生活は単身東京で送った。やんちゃをして教師に呼び出された母を泣かせた。大学院時代は現代美術を学ぶため米ボストンに渡り、さらに故郷から遠ざかった。

 ボストン美術館には、大樋焼が27点所蔵されている。これは何代の作品かと尋ねられ、見当もつかなかったから、丸暗記した。いつの間にか、ほかの作品も自然に見分けがつくようになっていた。「血かもしれない」と思った。

 ガンを患い、ハワイで静養中の祖父を見舞ったとき、「一緒に帰りたい」と祖父がポツリと言った。すでに米国に永住するつもりで市民権を申請していたが、一転、金沢へ戻ることを決めた。

 亡くなった祖父が使っていたヘラを受け継いでいる。「歴史と血のインシデンス(偶然)への感謝があって、初めて新しい試みができる」。その作風は、伝統に軸足を置きながら、あくまで独創的で、自由で伸びやかだ。インテリアやプロダクトのデザイン、茶会の演出まで、多彩な才能を遺憾なく発揮している。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)

大樋年雄(Toshio Ohi)●陶芸家。1958年生まれ。10代大樋長左衛門の長男。玉川大学文学部芸術学科卒業後、ボストン大学大学院にて修士号取得。ロチェスター工科大学、台湾国立台南芸術大学、東京藝術大学などで教鞭を執る。日展、日本現代工芸美術展など受賞多数。月心寺(金沢市)にて得度。裏千家・坐忘斎家元より茶名「宗炎」を与えられる。

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