糖尿病の発症予防には週に150分以上のウオーキングなり何なりが効果的。わかっちゃいるけどムズカシイ…と半ば開き直っている諸氏に朗報か?

 今月初めに欧州糖尿病学会の機関誌「糖尿病学」に報告された研究によれば、1日の生活の中でじっとしている時間を90分減らすだけで、2型糖尿病の発症リスクを週150分の運動効果に匹敵するほど、下げられるという。

 調査対象は、進行中の二つの糖尿病予防プログラムに参加している「予備群」の男女、878人。座ったり、寝転がったりしている時間を客観的に測定し、ライフスタイルが食後2時間の血糖値や、心血管系疾患の発症リスクになる中性脂肪の値にどう影響するかを調べた。

 その結果、当然といえば当然だが、1日の身体活動量が多い、または中等度~強度の運動をしているグループは、食後2時間後の血糖値や中性脂肪の値が、有意に改善された。

 一方、座りっぱなしの時間が長くなるほど、食後2時間血糖値がキレイに上昇。また、中性脂肪の値が増え、善玉コレステロール(HDL-c)値が減少した。興味深いのは、座り込みを中断して、多少なりとも体に負荷をかけると、血糖値も脂質の値も有意に改善したこと。ポイントは1日90分以上、座位時間を減らす点にあるらしい。研究者は「座りっぱなしの生活をやめるだけで、糖尿病を予防できるだろう」としている。

 だが、「座位主体の生活」が諸悪の根源だとしても、例えば経理パーソンが座位時間を毎日90分減らす、なんてことが可能だろうか。就業時間中の1時間半ですよ。まさか、突っ立ってパソコン画面をにらむわけにもいくまい。

 社用車の営業族も同じことだ。1960年代に自動車保有率が上昇した途端、2型糖尿病が激増したのは有名な話。今、中国がそのリスクに戦々恐々としている。

 一度、手に入れた“安楽”を手放すことはムズカシイ。腹をくくって週に150分の運動を選ぶほうが簡単だ──。誰ですか? 今日から立ち呑み屋しか利用しない、なんて言っているのは。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド