長期失業をきっかけに家から出る理由がなくなり、社会とのつながりがなくなって、引きこもっていく人たちは、将来への展望が持てないまま、ひたすらプレッシャーだけを感じて身体に蓄積させていく。
こうして1年以上にわたって都会のハローワークやエージェントで仕事を探しているものの、まったく決まらないという40歳代後半の元電機メーカーの会社員男性、Aさんの話を前回紹介した。
そもそも、Aさんがいまのような家から出られない状況に陥ったのは、勤務していた電機メーカーの“追い出し部屋”形式と言われている退職勧奨を受けたことがきっかけだった。
「行き場所がないから…」
突然呼び出されて“追い出し部屋”へ
Aさんは夜、人事部から突然「人事異動だ」と呼び出され、「君の行き場所がないから、この部屋で待っていてくれ」と通告された。
Aさんが待つように言われた場所は、事業部から離れた窓のない部屋。10席ほどのデスクが並ぶ、殺風景なフロアだった。
当時、Aさんの会社でも、AV機器の売り上げが大幅にダウンしていた。
人事部は、異動先を「新規事業…」などと口ごもり、はっきり言おうとしない。しかし、Aさんが待つように言われた部屋こそ、社内で噂されている通称「追い出し部屋」だった。
その部屋には、名前がない。
表向きの配属は「人事部付」ということになっている。しかし、辞令の発令が出ない。
部屋には電話が引かれているのに、社内の内線番号表には名前が出てこない。社内に存在しないことになっているのだ。もちろん名刺はない。
ひたすら次の部署が決まるまで待たされ続ける。しかし、その間、仕事は何も与えられない。
毎朝、その部屋に通勤するだけの日々。仕事がないのに、何もしないでいると「何も仕事をしていない」と怒られる。