トランプ大統領の「FRB介入」、安倍元首相の日銀支配“空振り”よりひどい自爆リスクPhoto:Anadolu/gettyimages

トランプ米大統領が米国の景気を浮揚させようとして米連邦準備制度理事会(FRB)に圧力をかけている。インフレがくすぶっているにもかかわらず、大幅な利下げを求め続けているのだ。実は、政権トップによる中央銀行支配には先行事例がある。日本の故・安倍晋三元首相だ。日銀ウォッチャーが、安倍氏の事例を踏まえながらトランプ大統領のFRB介入の勝算を占う。(時事通信社解説委員 窪園博俊)

中銀の金融政策への
露骨な口出しは異例

 米国のトランプ大統領が米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策運営への介入を強めている。具体的には、景気刺激のための利下げをFRBに求め続けているのだ。

 FRBはトランプ大統領が仕掛けた貿易戦争の影響を慎重に見極める構えだが、これが気に食わない同大統領は、一時パウエル議長をクビにしかねない勢いだった。その後は自重したが、最近では後任議長の人選を早め、FRBのかじ取りをけん制する構えをみせている。

 トランプ氏は1月下旬、大統領に就任した直後からFRBの金融政策に露骨な口出しを行った。同月23日、スイスで開催中の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でビデオ演説し、「即座の利下げを要求する」と述べた。

 また、「金利についてはFRBよりもよく知っている」と豪語。その後も利下げ要求を繰り返した。FRBがそれに応じない状況を続ける中、4月になると「(パウエル議長の)解任は一刻も早く実現すべき」とSNSに投稿。ただ、これに金融市場が動揺したため、すぐに「解任するつもりはない」と火消しの発言を行った。

 今月に入ってからは、再び要求度合いを強めた。6日には1%もの大幅な利下げを求めたほか、欧州中央銀行(ECB)を引き合いに出し、「欧州は10回も利下げしたのに、米国は1回も利下げしていない」、「FRBは後手に回っている」などと批判した。

 さらに、2026年5月に任期満了となるパウエル議長の後任人事を「極めて近いうちに公表する」との考えを示した。後任の人選を早めることについて、金融市場では「パウエル議長のやる気をそぎ、早めの辞職を促す狙いがあるのではないか」(大手邦銀)と受け止められている。

 本来、中央銀行は法的な独立性が担保され、金融政策は金融・経済情勢の動向を客観的に判断して運営されるもの。先進国において、政権トップが露骨な口出しを行い、意のままに金融政策を動かそうとするのは異例の事態だ。

 ただ、先進国なのに中央銀行を平然と支配して、金融政策を意のままに動かした国がある。日本だ。

 日本では、安倍氏が12年末、2度目の首相に返り咲いた際、デフレ脱却のための経済政策である「アベノミクス」を打ち出した。そして、その主砲を担ったのが金融政策だった。安倍氏が日銀を支配した手口と望む金融政策をやらせた結果が、トランプ大統領のFRB支配の行方を占う上で非常に参考となる。

トランプ大統領のFRBへの介入はうまくいくのか。次ページでは、安倍氏と黒田日銀の事例を踏まえながら、トランプ大統領のFRB介入の勝算を占う。