
コメの値上がりが止まらない――。2024年夏以降、日本の食卓を支える主食であるコメの価格が上昇し続け、「令和の米騒動」とも言うべき状況が生まれている。本稿では、POSデータを用いてコメの価格が上昇した2局面を徹底検証。「値上げ抑制→在庫切れ多発」の第1期と、「積極的な値上げ→在庫安定」の第2期を比較し、今後必要な政府の対応を考察する。(ナウキャスト創業者・取締役、東京大学名誉教授 渡辺 努)
CPIとCPINOWの「うるち米」インフレ率
昨年夏以降、コメの価格上昇が続いている。
コメの消費量はひと頃と比べると減ったとはいえ、今なおコメは日本人の主食であり、その価格の上昇は一つの商品の価格上昇をはるかに超える意味をもつ。
例えば、コメの価格上昇をスーパーの店頭で実体験し、関連のニュースをメディアで日々目にする中で、人々のインフレ予想(コメだけでなく物価全般に関する人々の予想)も不安定化する可能性がある。
まずは、コメ価格がどのように変化してきたかをデータで確認するところから始めよう。
図1は、消費者物価指数(CPI)に含まれている「うるち米」の前年比上昇率と、ナウキャスト社がPOSデータを用いて日次ベースで算出しているCPINOWの「うるち米」の前年比上昇率を示している。
どちらの指標でみても、2024年春までは安定していたが、それ以降、急速に伸び率を高めており、直近の伸び率はCPIで98%(25年4月)、CPINOWで73%(25年6月16日)と極めて高水準となっている。
こうした中で、政府は価格上昇を抑えるために備蓄米の放出を3月から開始し、5月には随意契約による放出へと切り替えた。こうした措置の効果もあって、CPINOWの伸び率は足元、幾分下がり気味になっている。ただし、伸び率の顕著な低下は今のところ観測されていない。
CPINOWの「うるち米」にはさまざまな銘柄が含まれているが、図2では、その中から「新潟コシヒカリ(5kg)」だけを抽出し、東京都内の45の対象店舗における価格の推移を示している。
図の「50%分位点」は45店舗の真ん中(=50%)の位置にある価格水準であり、中央値である。中央値は2024年7月までは約2300円で安定していたが、その後、上昇に転じ、足元は約4700円となっている。
これまでの上昇には二つの局面があった。
最初の上昇局面は24年7月から10月の時期で、このときは2300円から3600円まで上昇した。以下ではこれを上昇の「第1期」と呼ぶことにする。この時期には、宮崎の日向灘を震源とする地震の発生と、その後の気象庁による南海トラフ臨時地震情報の発令を契機に、家計が食料備蓄を始めた。都内のコメ価格値上がりもそうした動きと関連している可能性がある。
コメ価格は、第1期の終了後、しばらくの間、安定していたが、25年2月から2度目の上昇が始まり、3600円から4700円まで上昇した。現在まで続くこの局面が価格上昇の「第2期」である。
第1期と第2期の上昇はどのような理由で生じたのか。この二つの時期に違いはあるのか。以下ではデータを用いて考察する。