横浜市が「市内認可保育所の待機児童数ゼロを達成した」と発表したのは、5月下旬。しかし、それはあくまで一例に過ぎない。待機児童問題は水面下に深く根を張っており、全国的に見れば何も解決していない。保育所の定員数は増えているものの、統計に表れない潜在的な待機児童数は80万人に迫る勢いで増え続けているという推計もあり、保育所の定員が増えれば増えるほど待機児童数が増える「いたちごっこ」が続いている。今年2月の杉並区を皮切りに、全国の自治体で待機児童解消を訴える親たちが増え続けている。こうした問題の背景にあるのは、保育所に関わる非効率な社会システムが生み出す矛盾だが、とかく社会で「働く女性が直面する問題」としてのみ捉えられがちなことが、問題を一層深刻にしている現状がある。あなたの妻は、子どもを抱えて独りで路頭に迷っていないか。待機児童問題の本質に迫った。(取材・文/プレスラボ・小川たまか)

横浜市の「ゼロ達成宣言」はほんの一例
全国的には何も進まない待機児童の解消

 今年4月1日現在で、市内の認可保育所の待機児童数がゼロ(前年同期比179人減)を達成した――。

 横浜市(神奈川県)がこう発表したのは、5月20日のこと。2010年の同時期、全国で最も多い1552人の待機児童を抱え、林文子市長が「今後3年間で待機児童をゼロにする」という公約を掲げていた同市の快挙は、初夏の明るいニュースとして大きく報じられた。

 しかし、今回の朗報はほんの一例に過ぎない。数年前から指摘されている待機児童問題は、全国的に見ればまだ何も解決していないのが実情である。今年2月、母親たちが杉並区役所に待機児童問題の解消を求める訴えを起こしたことを皮切りに、その後も足立区や大田区など23区の自治体をはじめ、さいたま市や東大阪市で訴えが続いている。

 横浜市の快挙にしても、専門家からは一定の評価を下す声がある一方、「待機児童問題はいたちごっこ。横浜市でも潜在的待機児童数がまだ顕在化するはず」「待機児童数のカウントにからくりがないかなど、今後も見守る必要がある」と、慎重な意見も挙がっている。

 子どもを持つ家庭に影を落とす待機児童問題については、これまでダイヤモンド・オンラインでも「待機児童を救う民間の保育所参入は“悪”なのか?「子ども・子育て新システム」に募る異論の中身」、「新規参入は断固阻止!! 保育園業界に巣くう利権の闇」(『週刊ダイヤモンド』より転載)などの記事を通じて、警鐘を鳴らしてきた。

 今回、改めて待機児童問題を取り上げるのは、今年に入って待機児童を巡る動きが、都市部を中心にこうして再び活発化しつつあるからだ。