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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

ねじれの解消は本当に「決められる政治」につながるか

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第64回】 2013年7月23日
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 第23回参議院選挙が投開票された。自民党は1989年に失った単独過半数には届かなかったが、公明党との連立与党としては全議席の過半数を獲得する圧勝となった。安倍晋三首相は、衆参の多数派が異なる「ねじれ国会」の解消によって、一挙に「決められない政治」からの脱却を図ることを宣言した。だが、本稿では参院選の圧勝によって、安倍政権がこれまで以上に「決められない政治」に陥る懸念があると考える。

安倍首相の重要課題の争点化回避により
参院選は「究極のポピュリズム選挙」となった

 今回の参院選の特徴は、安倍首相が選挙戦を通じて、「アベノミクス」の成果のみを強調し、政治が取り組むべきさまざまな重要な課題について、ほとんど何も語ることがなかったことに尽きる。首相は参院選前から、世論が割れがちな憲法改正や外交・安全保障の分野について持論を抑えてきたが(第59回を参照のこと)、参院選ではそれ以外の政策についても、徹底して言及を避けていた。

 三党合意によって野田佳彦政権から引き継いだはずの「税と社会保障の一体改革」は、参院選ではテーマそのものが忘れ去られたようだった。安倍首相は消費増税に来年春から踏み切るかどうかの議論を避け、財政を圧迫している社会保障費の抑制も語られることはなかった。社会保障費が高齢化で毎年約1兆円ずつ増え続け、国の借金が今年度末で1000兆円に達するという現実を、安倍首相は国民から隠そうとした。

 次に、環太平洋経済連携(TPP)参加問題である。参院選の最中に、日本政府がマレーシアで行われたTPPの第18回交渉に初参加した。だが、安倍首相は参院選の街頭演説では、「農業収入は10年間で倍増を目指したい」と主張するのみで、TPPにはほとんど触れることがなかった。一方、各選挙区では、さまざまな自民党の候補者が、TPPを巡って農業保護という「国益を守る」と訴えていた。選挙戦を通じて自民党とその支持者の間に、まるで無法地帯のように「TPP反対論」が広がってしまったといえる。

 更に、エネルギー政策だ。福島第一原発事故では、今でも15万人が避難生活を強いられている。安倍首相は、その福島で参院選の第一声を上げたが、選挙戦を通じて原発に関わる発言を控えて、争点化を避け続けた。原発に依存するのか、脱原発に進むのか、長期的なビジョンは示されず、なし崩し的に原発再稼動だけが進んでいる状況だ。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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