Photo by Takeshi Yamamoto
ディオバン論文問題は、最悪の方向に向かっている。
スイスの大手製薬会社、ノバルティス ファーマの降圧剤「ディオバン(一般名:バルサルタン)」について同社社員(当時、現在は退職)が、京都府立医科大学、東京慈恵医科大学、滋賀医科大学、千葉大学、名古屋大学の5大学の医師主導の臨床研究に、関与していたことが発覚、論文の信用性に疑いが生じているのだ。
この社員は、5大学いずれの臨床研究でも、製薬会社の身分を開示せず、非常勤講師だった大阪市立大学の肩書でデータ解析の専門家として参加。特に、京都府立医科大学では、データ解析を担当していた。ノバルティスの元社員によるデータの不正操作があるか否かが大きな焦点だった。
7月11日、京都府立医科大学は調査結果を発表。臨床研究によるカルテと解析用のデータの間に相違が見られ、最終的な解析用データに「何らかの人為的な操作が行われた疑いがある」と報告。脳卒中などのリスク抑制効果について、ディオバンに有利なデータ操作が行われていた。
だが、肝心の「誰がデータ操作をしたのか」は特定できず、改ざんが意図して行われたかどうかさえも確認できなかった。
その大きな要因は「退職した元社員の強い意志により実現しなかった」というノバルティス側の理由により、大学側が元社員に直接ヒアリングできなかったためだ。
既にノバルティスは、6月3日付けで元社員へのヒアリングやメールの記録などの内部調査によって、「データの意図的な操作や改ざんを示す事実はなかった」と発表している。この発表が正しいのならば、本来はやましいことがないのにも関わらず、元社員は協力を拒んだことになる。
これはデータ解析できる人間が限定されていることから、元社員によるデータ改ざんの疑いを強めている大学側とは、明らかに相反するものだ。かえってノバルティスに対する疑惑と不信感を増幅させる結果となった。