カギを握るTFP

前回、成長方程式という考え方を説明した。そこで強調したように、多くの国の成長の経験からもわかることは、TFP(全要素生産性)こそが持続的な成長を維持するうえで最も重要であるということだ。

 労働や資本などの生産要素が増えていくことも、もちろん成長に寄与する。しかし、労働や資本が増え続けて成長を維持したという事例はあまりないと考えたほうがよい。

 日本の人口減少、とりわけ労働人口の減少を理由として、日本の経済成長は悲観的だと見る人は多い。たしかに、労働人口が減少していけば、それだけ成長率にはマイナスで効いてくる。しかし、そのマイナス要因を跳ね返すだけのTFPの上昇があれば、日本はそれなりの経済成長を続けられるはずだ。

 人口減少社会にありがちな低成長運命論を受け入れるのではなく、いかにTFPを引き上げていくかを、前向きに考えていく必要がある。

「失われた20年」を通じて低かったTFP

 バブル崩壊から20年、日本は経済的な低迷を続けた。非常に低い成長率に甘んじ、需要不足からデフレにまで陥る。「失われた20年」と呼ばれる時期だ。この時期、日本のTFPは、他の先進国に比べてもきわめて低いものであった。このTFPを上げていくことが、日本の成長戦略の目標である。

前回も説明したように、TFPは主に2つの要因によって動く。1つは、イノベーションによって生産性が上がるというものだ。そしてもう1つは、生産性の低い企業や部門から生産性の高い部門へ資本や労働が移動し、社会全体の生産性が向上するというものだ。

 残念ながら、失われた20年の間、日本では、このいずれもが非常に低調であった。2つの要因を通じていかに日本のTFPを引き上げていくか――これが日本の成長戦略のカギになる。

 現在、政府によってさまざまな分野での成長戦略の具体策が検討されている。その内容は実に多岐にわたるものである。対象分野だけでも20を超えるような数となる。

 対象分野を思いつくままにいくつか挙げてみれば、ICT(情報通信技術)などを利用した生産流通革新、農業の競争力強化、グローバル化を進めることによる経済活性化、医療や雇用分野を通じての雇用拡大、エネルギーや環境を通じたグリーンイノベーション、労働市場の改革による女性や若者の活躍の支援、等々である。