経済の落ち込みが鮮明になり、雇用条件が悪化するに伴って、景気刺激策の必要性が政治的な課題として論じられている。
麻生太郎政権は、「二度の08年度補正予算と09年度予算で景気対策を取り(景気対策三段ロケット)、その事業規模は75兆円である」としている【下記URL参照】。
・http://www.kantei.go.jp/jp/keizai/index.html
・http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2008/12/081224kaikensiryou.pdf
しかし、中身をみると、75兆円の中には、保証・貸出枠や銀行への資本注入枠など(計49兆円)が含まれている。これは、著しい水増しと言わざるを得ない。
「75兆円のうち財政支出は12兆円」と断ってはいるが、財政支出だけを見ても、妊婦検診の無料化など、景気刺激策とは言えないものがほとんどだ。額的にかなり大きいのは、医師確保・緊急医療対策、難病対策、新型インフルエンザ対策などだ。これらが必要なことに対して異論を挟もうとは思わないが、これらは経済が落ち込もうが落ち込むまいが必要とされることだ。こうしたものを「景気対策」に含めるのでは、全体の数字が信頼性を失う。
マクロ経済学的な意味で景気対策とみなせるものは、定額給付金2兆円以外には見当たらない(自動車減税、高速道路の料金引き下げなどについては、後で論じる)。
他方において、GDPの落ち込みは10%程度、つまり50兆円程度と考えられる。これを引き起こしている外生的要因である輸出だけをとっても、20兆円を超える減だ。それを補うだけで、20兆円程度という未曾有の財政拡大が必要になる。2兆円では10分の1にしかならない。
麻生首相は、追加対策として、09年度予算の補正が必要であるとしている。政府・与党は4月中旬までに追加対策の概要を固め、下旬にも補正予算案を国会に提出する見通しという。しかし、「三段ロケット」のときのように雑多な政策をかき集めて数字だけ大きく見せても、意味があるとは思えない。冷静な経済的分析が必要だ。
IMFの評価
IMF(国際通貨基金)は、3月19日、主要20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に提出した資料の中で、各国の財政政策についての評価を行なっている。IMFが推計する裁量的財政政策の大きさは、【表1】のとおりだ。
【表1】裁量的財政政策の対GDP比(07年からの乖離、%) |
09年の値をGDP比で見ると、日本は1.4%でG20の平均である1.8%より低い。アメリカが2.0%であるのに比べると、かなり低い。08~10年の平均では0.7%であり、アメリカの1.6%に比べて半分以下だ。財政支出の内容まで評価しているのかどうかは明らかでないのだが、いずれにしても、日本の数字が他国に比べて小さいことは間違いない(GDPの1.4%とは、7兆円程度である)。