ここでちょっとお話ししたいのが、サムライスタートアップアイランド(SSI)の起業家同士や、僕が支援をさせていただいているサムライ軍団のネットワークの強さです。何しろ百数十人の起業家が集まっていますから、
「あいつが増資を受けられたなら、おれも半年以内に絶対にやってみせます」と、他社の動向に刺激を受けるだけでなく、
「○○さんていう人に投資の話をもらったんだけど、知ってる?」
「あの人のデザインセンスはいいから、サイトのユーザーインターフェイスを相談するといいよ」
などの情報を共有する会話がしょっちゅう飛び交っています。

 昔はVCに、株式の買取条項(会社と社長がVCから株式を買い取ること)を入れた出資契約を結ばされたこともあったり、株式のシェアをたくさん取られたりすることもあったようですが、そんな評判もいまではあっという間に広がってしまうのです。

 また、サムライ軍団の間では、「ラーメン代稼ぎ」もとてもやりやすくなっています。
「ラーメン代稼ぎ」とは、シリコンバレー最強のインキュベーターであるYコンビネータの創設者、ポール・グレアムが使った言葉です。クラウドやオープンソースの普及によって、ITベンチャーに必要なコストは下がる一方であり、極端な話、創業者が食べていけるだけの利益、つまり「ラーメン代」さえ稼げれば、サービスを続けられるという話の中で使われました。ちなみに元の英語でも、「ramen profitable」と、まんまラーメンという言葉が使われています。

 サムライ軍団は現在だけでも60社ありますので、その時々で資金難に陥ったり、業績の悪いところが出てきます。でも、簡単には潰れません。なぜならサムライ軍団の中には、経験豊富な起業家がたくさんおり、情報共有のみならず専門的な知識や人脈での助け合いも頻繁に行なわれているからです。

 学会論文専門の電子書籍プラットフォーム「Viewstock」の企画・開発・運営を行なうMiewの刀禰真之介さんも、助け合いの精神を強くもつ経験豊富な起業家の1人です。外資系大手コンサルティング会社、投資銀行、そしてベンチャーキャピタルで活躍された刀禰さんは、増資を検討したり売却を視野に入れていているサムライ軍団の資金調達やM&Aなどの相談を積極的に受けています。

 そして、どうしても経営が苦しくなったら、サムライ軍団内で仕事を回してもらえます。
 つい最近の例では、ある起業家が「決まりかけていた増資が受けられなくなった。うちのエンジニアがあまっているけれど、どこか使ってくれないか」と頼み、ちょうど新サービスのリリースで修羅場になっていた会社から仕事を受注しました。期間は4ヵ月。その間に稼いだラーメン代は600万円になり、その資金をもとに、この起業家は再び新しい事業にチャレンジしています。

 このしくみのためか、サムライ軍団には、資金繰りが理由で廃業した会社はまだ1社もありません。

2. 起業家をサポートする専門家、中央行政や地方行政

 スタート時のベンチャーには、絶対に専門家の助けが必要です。会社を設立する際には司法書士や弁護士のサポート、ストックオプションを採用するなら、それに詳しい弁護士や会計士、税理士などです。

 ベンチャーが専門家に相談することもなく株式を発行すると後々トラブルになるケースがありますし、不利な条件で投資を受けてしまい、上場のハードルが無駄に高くなってしまった起業家もいます。

 かつてはベンチャーに関する知識をもつ専門家は「圧倒的に足りない」状態だったのですが、ここ3年で状況はかなり改善し、公認会計士の磯崎哲也さんのように、ベンチャーの専門家として著名な個人や法人がクローズアップされるようになりました。そうした方々の活躍を見て、多くの専門家がベンチャー企業のサポートに参入してきています。

 僕自身もこのサポートは、近年かなり手厚くなったと感じています。後述しますが、サムライは、昔では考えられなかったような「無償でもいいからベンチャーを支援したい」というボランティア精神の高い専門家の方々に支えられています。自己犠牲精神というと少し大袈裟ですが、本来高いお金をもらってしかるべき専門家が、目の前の利益ではなく将来を見越していまを支援する考え方が、日に日に強くなっていることを実感しています。