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3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言

われわれは再び
唯一の正しい答えはないという
時代へと突入しつつある

上田惇生
【第348回】 2013年9月9日
著者・コラム紹介バックナンバー
ダイヤモンド社刊
1890円

 「平坦な大地にも、高みに上り谷へと下りる峠がある。そのほとんどは単なる地形の変化であって、気候や言葉や生活様式が変わることはない。しかし、なかにはそうでない峠がある。本当の境界がある。とくに高くなるわけでも目を引くわけでもない。たとえばブレンネル峠は、アルプスのなかでももっとも低くもっとも緩やかだが、古より地中海文化と北欧文化を分けてきた。そして、歴史にも境界がある」(『イノベーターの条件』)

 ドラッカーとは、現代社会最高の哲人であり、マネジメントの父である。その現代社会の哲人としてのドラッカーの重要論文を編纂したものが、本書『イノベーターの条件』であり、そのなかで抜きんでて重要なものが、この「歴史にも境界がある」に始まる論文である。初出は、現実が変わったことを宣言した20年前の名著『新しい現実』だった。

 ドラッカーは、「歴史にも境界がある。その時点では気づかれることもない。だがひとたび超えてしまえば、社会的な風景や政治的な風景が変わり、気候が変わる。言葉も変わる。新しい現実が始まる」といった。

 今回の峠は、1965年頃に始まり、2030年頃まで続く。その間、あらゆる風景が変わる。しかし、それらのうち最も重要で根源的な変化は何か。それが、何事にも正しい答えとしての万能薬があり、人はそれを手に入れることができるはずとの、デカルト以来のモダンの信条が誤りであることが認識されることである。

 これだけ政治、社会、経済が混迷してくると、頭の中も混迷してくる。しかしそれは、何事にも正しい答えがあり、その答えは明らかにすることができるとの観念に縛られているからである。

 答えはある。しかし、簡単にとらえることはできない。したがって、われわれがなすべきことは、理想を求めつつも、手持ちの道具を使って、一歩一歩前進していくことだけである。万能薬があるはずとの信条は、いわば美しい夢だった。夢なら目を覚まして、働かなければならない。

 「今や、われわれは政治に関して、ちょうど1700年ころに近代医学が登場した時と同じ状況にある。当時ようやく、医学は万能薬の追求をやめ、具体的な個々の病気それぞれに効く治療を追求し始めた」(『イノベーターの条件』)

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上田惇生(うえだ・あつお) 

 

ものつくり大学名誉教授、立命館大学客員教授。1938年生まれ。61年サウスジョージア大学経営学科留学、64年慶應義塾大学経済学部卒。経団連、経済広報センター、ものつくり大学を経て、現職。 ドラッカー教授の主要作品のすべてを翻訳、著書に『ドラッカー入門』『ドラッカー 時代を超える言葉』がある。ドラッカー自身からもっとも親しい友人、日本での分身とされてきた。ドラッカー学会(http://drucker-ws.org)初代代表(2005-2011)、現在学術顧問(2012-)。

 


3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言

マネジメントの父と称されたドラッカーの残した膨大な著作。世界最高の経営学者であったドラッカーの著作群の中から、そのエッセンスを紹介する。

「3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言」

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