世界は政治家の言葉に厳しい

 それにしても大胆な発言だった。

「放射能汚染水の影響は原発港湾の0.3平方キロメートルに完全にブロックされている」

 汚染水は制御不能になっているから問題なのだ。安倍首相が「コントロール下にある」と言ったのは「嘘をついた」ことにならないか。

 9月7日ブエノスアイレスで開かれたIOC(オリンピック)委員会での発言は、「原発事故などたいしたことではない」と世界に公言したようなものである。フクシマの現実はそんなに軽くはない。2011年には高濃度の放射能物質が外洋に流れ出ている。日本原子力研究開発機構のシミュレーションによれば、来年にはハワイ沖に達するという。いずれ国際的な問題になるだろう。「完全にブロックされている」と事実に反する発言をした責任を問われることになるかもしれない。

 日本では「政治家のことば」は聞き流されるが、世界は「政治家の嘘」に厳しい。

 福島沖で高い汚染値が観測されていないのは観測体制に問題があるから、ともいわれる。今回の汚染水の流出も参議院選挙の開票直後に公表された。流出は前から続いていたのに「異常なし」だった。

 首相は「汚染濃度は安全基準よりはるかに低い」という。放射能が海に拡散しているから濃度が下がっているだけだ。「水割り」にすれば基準値に収まる、というのが政府や東京電力の考えのようだ。

 福島原発の敷地は汚染水のタンクで埋まっている。メルトダウンした核燃料がどこにあるかも正確には分からない。水を掛けて冷やす作業は十年は必要だが、汚水を貯めるタンクの置き場がない。結局は水で薄めて海に流すという「水割り作業」が東京五輪までに始まるだろう。