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《WANTS起点》でビジネスを設計する時代 水口哲也

イノベーションは
「自分事」のウォンツから生まれている

水口哲也 [メディアデザイナー/Mizuguchi Creative Office代表/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)特任教授]
【第3回】 2013年10月17日
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イノベーション(改革)とは、どこから生まれるのか? 人の心を掴むようなプロダクト、サービスなどには、その根底に何があるのか? マズローの欲求のピラミッドを参照しながら、「ニーズからウォンツへ」というパラダイムシフトが起きていることは第2回で示した通りだが、第3回は、最近の具体例を紹介しながら、WANTS/ウォンツ起点でプロダクトやサービス、そしてビジネスを設計する時代に入りつつあることを、明らかにしてみたい。ニーズ発想では、なぜ、いけないのか。何が、限界なのか。ウォンツ発想で、何が生まれ、何が可能になるのか。新しいパラダイムを感じ取るイノベイターたちは、すでに人々のウォンツを中心にデザインするという新たな作業を始めているのだ。

「サーフィンでいい映像を撮りたい」という
ウォンツから生まれたGoPro

 GoProというカメラが世界的に売れている。これだけ携帯電話やスマホにカメラがついて、デジカメ自体が苦戦しているのにもかかわらず、だ。

 海の中だろうが、スカイダイビングだろうが、自転車だろうが、砂漠だろうが、どんなエクストリームな状況の中でも、広角・高解像度の映像(4Kも可能)が撮れる。手のひらで握れるくらいの数十グラムのカメラには、液晶モニターもついていない。欲しい分だけ自分でアクセサリーをそろえて、自分の用途に合わせて自由にカスタマイズできる。

 スマホのアプリからは、Wifiのリモートコントロールで、プレビュー、再生、ソーシャルメディア上での共有、最大50台のGoProを同時に動かすなど、いろいろな操作が手元でできる。わざわざ新しいリモコンをポケットに入れて持ち歩く必要もない。

 このカメラは、ニーズから生まれたのだろうか? いや、GoProは創業者ニック・ウッドマンの強烈なウォンツから誕生している。彼の「自分自身でサーフィンのいい映像を撮りたい」という欲求がなければ、このカメラは誕生しなかった。

 そして彼のウォンツは、他の多くのエクストリーム系アスリートにも飛び火した。さまざまなスポーツの場で、「記録したい」「楽しみたい」「見せたい(魅せたい)」「シェアしたい」ウォンツをもっているユーザーたちに連鎖的に発火した。

 おそらく、企業のお決まりの会議にかけられて、ニーズや汎用性を徹底的に追求されたら、この企画は一発で弾き出されるだろう。前回の連載で、マズローの欲求のピラミッドを参照しながらニーズ発想の限界について述べたが、生活上の基本的なニーズが満たされ、インターネットが浸透しきった今この時代、人々は同じ趣味嗜好を持った人々でクラスター化し、より能動的になった。

 受動的で集団的な欲求は「ニーズ」と言えただろうが、能動的で個人的な欲求は、もはや「ニーズ」ではなく「ウォンツ」となる。そう、GoProはまさに、ウォンツから生まれた象徴的なプロダクトだ。

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水口哲也 [メディアデザイナー/Mizuguchi Creative Office代表/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)特任教授]

メディアデザイナー/Mizuguchi Creative Office代表/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)特任教授。人間の欲求とメディアの関係性をリサーチしながら、ビデオゲーム、音楽、映像、プロダクトデザインなどさまざまな分野でグローバルな創作活動を続けている。ゲームの代表作として、『セガラリー』(1994)、『スペースチャンネル5』(1999)、『Rez』(2001)、『ルミネス』(2004)、『Child of Eden』(2010) など。また音楽ユニット・元気ロケッツ(Genki Rockets)のプロデュースをはじめ、作詞家・映像作家としての顔も併せ持つ。 2002年欧州アルスエレクトロニカにおいてインタラクティブアート部門Honorary Mention、経済産業省デジタルコンテンツグランプリ・エンターテインメント部門サウンドデザイン賞、文化庁メディア芸術祭特別賞などを受賞。 2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界で注目すべきデジタル系イノベイター50人)の1人に選出される。
 
「水口哲也の仕事とプロフィール、そしてブログ」 www.mzgc.net

 


《WANTS起点》でビジネスを設計する時代 水口哲也

あらゆる生活シーンにおいて、欲求=WANTSは人間の行動や情動の源泉であるにもかかわらず、私たちは普段、どのように欲求が人間の生活や社会に影響しているかなどとは考えない。それは無意識の世界で起こることだからだ。しかし筆者は、つねに無意識の情動である人間の欲求と対峙して、その道筋をどうつければ、どんな感情を、どういうふうに導き出せるか、の試行錯誤を繰り返しながら仕事を続けてきた。現在、筆者が取り組もうとしているメディアデザインの応用開発を示すべく、現代人の欲求=WANTSに新たな光を当てて、《WANTS起点》で時代を切り開くイノベーションへの筋道を示してみたい。

「《WANTS起点》でビジネスを設計する時代 水口哲也」

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