ビッグデータを本物のブランドにつなげる

 ビッグデータが、これから商品・サービスの開発に寄与し、マーケティング上の非常に重要なツールになることも間違いないと思う。

 ネスレ日本も通販でマシンを販売しているが、オンライン通販分野ではAmazonが世界の最先端を走っている。ネットの世界とは、コミュニケーションもその中で完結されるものだ。そのため、一人ひとりの購入傾向がわかれば、これを使わない手はない。このデータをAmazonだけに独占されてしまうのはもったいないことだろう。

 実は、Amazonのモデルは、まだスーパーマーケットがオーバーストア(店舗過剰)でなかった時代の売り方と一緒だ。

 ネスレ日本の場合、かつては「ネスカフェ」の特売で消費者を引きつけて、利益率の高い商品を買ってもらうことで儲けていた。当時は、それで最終的な利益が出るという仕組みがあったのである。

 しかし、オーバーストアになると、チラシに掲載されている安い商品しか買わない。そこからEDLP(Everyday Low Price)という戦略が生まれ、特売によるロスを回避する方向へと変わる。粗利は10%で構わないので、常に安く売ろうという戦略だ。これが、現在のディスカウントストアである。

 ちなみに、「ネスカフェ ドルチェ グスト」の場合、マシン本体では儲けが出ない価格設定をしている。実は、「ネスカフェ ドルチェ グスト」にはコピー商品が出てこない。マシン本体の販売で儲けようとせず、高品質の製品を手軽な価格で提供しているので、マシンで儲けなければならない他社メーカーが参入できないのだ。これもビジネスモデルの勝利だと言える。

 Amazonの話に戻ろう。商品を購入した人がAmazonの会員であれば、購入履歴がすべてわかる。何か購入すると必ず別の商品を勧めて、利益率の高いものを買ってもらうノウハウがあるので、彼らは利益成長を実現しているのだ。つまり、昔のスーパーマーケットに、ビッグデータが加わったのがAmazonだと考えることができる。

 Amazonのように、ITの進歩によるビッグデータを活用することは、これからより重要になるだろう。ただし、データを見てその通りに動くだけでは何も変わらないことも忘れてはいけない。

 商品・ブランドをつくる立場として言えば、そうした購買行動とデータを一本化して、本物のブランドをつくることこそがキーポイントになると考えている。そして、それは最も難しいことでもあるのだ。

次回更新は、11月13日(水)を予定。


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 成熟市場における消費者の嗜好は、かつてないほど多様化している。消費者のニーズは一人ひとりすべて異なると考えられ、いち早く察知することに企業は躍起になっている。くわえて、ビッグデータなど情報収集ツールの進化によって、個人の消費活動が詳細かつ正確に捕捉できるようになったことも、その傾向に拍車をかけている。
 しかし、本当にそれで消費者の心を射止めることができるのか。消費者は自分自身の本心を把握しているとは限らない。気づいていないことは、いくら聞かれても答えられないのである。マーケティング・リサーチの結果をうのみにすることは危険である。本稿では、むしろ人間の本質を見極めたうえで、社会の環境変化からニーズの変化を探り当てることが大切であり、それこそが本来のマーケティングであると説く。

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