【技術5】象徴的一文を探す

 抜き書きをする文章は、自分が「おお!」と思った箇所を選びます。たとえば、

「あの感覚をこんなにうまく表現しているのをはじめて見た」
「こういう見方があるのか」
「はじめて腑に落ちる説明を聞いた」
「なんてかっこいい表現だろう」
「わけがわからないけれど、なんとなくすごい」

 と思うようなところです。大事なのは、あくまで「自分の」心が動いたところです。客観的に重要な箇所や著者が強調しているところでも、何も感じなければスルーします。そんなものは、目次や「はじめに」を見ればわかるし、他の誰かがブログやアマゾンのレビューにまとめてくれます。とことん主観的に読めるのは、研究者でも編集者でもない「普通の読者」の特権なので、全力で享受すべきでしょう。

 もう一つ、抜き書きする文章選びのコツは、「なるほど」ではなく、「言われてみればそうだ」という箇所にしておくことです。読んでいて「そうそう」「わかるわかる」というのは気持ちがいいけれど、その実、あまり新しい知見には結びつきません。それより、自分の考えが覆された、認識が揺さぶられた文章を、書き写したり読み返したりしながら、何度も納得したり、反発を感じたりする方がいい。

 また、抜き書きする文章が多すぎるときは、どうすればいいでしょうか。まずは、厳選して量を減らします。一段落が長すぎるようなら、その中の一文を抜き出す。またはその段落の象徴となっているキーフレーズ、キーワードを抜き出すという具合に、どんどんそぎ落としていきます。

 このように言葉を選び抜いていく作業、これ自体が結果的な再読、再々読になります。理想は「読書体験を象徴する一文」を見つけることです。同じことをいろいろな言い回しで言っている箇所の中で、一番腑に落ちる箇所を探します。同じ比喩でも将棋にたとえているところか、野球にたとえているところか、心に響く箇所は人によって違うでしょうから、これも主観的に選ぶようにします。

 長い文を書き写すのがしんどくて、適当なキーフレーズも見つけることができないときには、「小見出し」を写しておくという手もあります。小見出しは、著者や編集者がかなり気を遣っているところなので、一番かどうかは置いておいても、象徴的な言葉が書かれていることは間違いありません。

 また、たくさんマーキングした本は、読書ノートをつくる前にしばらく積んでおくといいでしょう。読んだ直後は「これは素晴らしい本だ」と思っていた本も、しばらくたつと「それほどでもないかな」と変化してくることがあります。その結果、抜き書きする箇所も減るというわけです。裏を返せば、それでもすごいと思う文章は本当に価値があるわけです。(第4回へ続く)


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著者紹介
本を読みっぱなしにしない!<br />確実に自分の血肉にする5つの技術
奥野宣之(おくの・のぶゆき)
1981年大阪府生まれ。同志社大学文学部でジャーナリズムを学んだあと、出版社、新聞社の記者を経て『情報は1冊のノートにまとめなさい』で著作デビュー。独自の情報整理術や知的生産術がビジネスパーソンを中心に支持を集め、第2弾『読書は1冊のノートにまとめなさい』、第3弾『人生は1冊のノートにまとめなさい』と合わせたシリーズは累計50万部を超えるベストセラーとなった。
ジャーナリストの経験を活かし、ウェブや雑誌のライターとして活動するかたわら“ノート本作家”として、メディア出演・講演などでも活躍中。仕事に活かせるノートや文具の活用法、本とより深く付き合うための読書法、人生を充実させるライフログの技術、旅行や行楽を楽しむための旅ノート・散歩ノートの技術など、活動の幅は広い。趣味は古墳めぐりと自然観察。ついでに写真撮影。仕事だけでなく家庭や趣味でもノートを使いこなすライフスタイルは、NHKやTBSでも放送され反響を集めた。
その他の著書は『旅ノート・散歩ノートのつくりかた』『知的生産ワークアウト』『「処方せん」的読書術』『新書3冊でできる「自分の考え」のつくり方』など多数。

著者エージェント:アップルシード・エージェンシー
http://www.appleseed.co.jp