既存の製品をテコ入れしたところで、長続きはしませんでした。そこで、肝心の酒造りを一新しようと決心します。しかし、酒造りは一般的に、冬場のみ酒蔵にやってくる技術集団の杜氏と蔵人に任せるもの。旭酒造がそうした業界の慣習にとらわれず、社員のみで、しかも冬場のみでなく一年中酒造りのできる体制を構築するまでは、まさに山あり谷ありでした…。桜井博志・旭酒造社長は、テレビ東京系列『カンブリア宮殿』1/16(木)に出演予定です!

 私が社長になったころの旭酒造にとって、酒蔵商売の“正攻法”とは、一生懸命に酒屋さんを回って人間関係を築き、酒を売ってもらうことにありました。それが、一般的な酒蔵のスタイルだったのです。とにかく「ある(できている)酒を売る」のが基本スタンスで、「良い酒を造る」という視点は皆無で、冬場の仕込み時期だけくる杜氏(酒造りの棟梁)に任せきりなのです。

 今でこそ純米大吟醸しか造らない旭酒造も、私が社長に就いた直後の主力製品は普通酒でした。当時は酒に等級があって、1級酒以上は大手メーカーの世界であり、地方メーカーはもっぱら2級酒を造っていて、品質は二の次でした。

 旭酒造もご多分にもれず1級、2級酒を造っていましたが、良質な普通酒を造るには、ある一定量以上は量産しないとコスト高になってしまいます。スケールメリットの得られる最低石高として、ざっと5000石(1.8リットル瓶で50万本)程度はいるでしょう。むろん、小さい酒蔵でも、コストを度外視して良質な普通酒を造ることは不可能ではありません。しかし、それには従業員の給与を低いまま据え置くことが条件になります。

 うちが、そこまで無理をして普通酒を造り続けて、本当に社会的に価値があるのか?

 その点、小規模な仕込みでないと高品質が保ちにくい大吟醸なら、小さな酒蔵であることを逆に強みにできる。無理せず、高品質な吟醸酒をそれなりの価格でお客様に提供できるわけです。

 酒蔵といえども企業です。企業である限り、社会に貢献しなければ存続する価値はない。私は、大吟醸づくりに挑戦することにしました。
 勇気を持って「普通」を捨てることを決断したのです。

 ただし、当然ながら、大吟醸造りの難易度は高い。初めからうまくいくはずがありません。