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山奥の小さな酒蔵、世界に挑む
【後編】 2013年8月9日
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桜井博志 [旭酒造株式会社 代表取締役社長]

原料である山田錦の増産に国の助けは期待しない!
逆境を跳ね返すのは私たちにとって「慣れた闘い」だ
桜井博志・旭酒造社長インタビュー【後編】

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純米大吟醸『獺祭』を展開する山口県の旭酒造。2012年度の売上高は25億円(前期比51%増)と、10年間で約6倍に成長した。今年度の売り上げもそのさらに50%増と破竹の勢いで伸びており、青息吐息の日本酒業界にあって数少ない勝ち組といえるだろう。3代目の桜井博志社長はしかし、現状に甘んじることなく、海外市場の掘り起こしを本格化させる。前編で聞いた、海外展開への手応えや課題に続いて、後編では、その海外市場向けを含め増産のボトルネックになりかねない原料・山田錦不足の打開策について尋ねた。(文中敬称略)

−−−−狙い通り海外の売り上げも増えていく前提で、すでに25億円投資して生産設備を2014年末までに3倍近く増やし年間500万本体制になります。心配の種は、原料である山田錦(最高品質の酒米)が安定的に確保できるか、ですね。桜井社長は、山田錦を減反政策(米の生産調整)から除外するなどの提案を、積極的にされていますが、変化は見られますか。

旭酒造の正面入り口。明治期に建てられた風格ある玄関に加え、建物の一部は約250年前(江戸時代)のものだが、ここに新たな製造棟を建てるため、壊さざるをえない。「ほかに土地もないし、どう設計しても残せないので、仕方ないです。使える資材があれば使います」と、桜井社長は感傷にひたる風もなく、合理的な姿勢をのぞかせた。

桜井 米の増産がなぜままならないか、この問題は農林水産省や全農、農家の言い分がさまざまで、聞いていてもよくわかりませんよね。一般には「米余り」の印象が強いと思いますが、少なくとも酒造りの現場では米が足りません。飯米と違って、酒造りに使われる山田錦ははるかに高価で、栽培適地も余っていて、当の農家さんたちも増産意欲の高い人が多い。それなのに、農水省は一律的に供給をしぼり続けていて、「米余り」を演出しているようなものです。

こちらが、新たに建つ本蔵の完成予想図。地下1階、地上12階で最新設備を備える。

 結局のところ、戦後一貫して農水省が米を保護するために規制してきた結果、農家からやる気も実行力も奪ってしまった、ということに尽きると思います。それでも、農水省は自分たちの責任や失敗は認めないし、これから先も積極的に動くことはないでしょう。だから、それを前提に自分たちでどうするか、を私たちは考えなければいけない。

 今年も発注した山田錦4万3000俵に対して、4万俵しか入ってきませんでしたから、現時点で充足していません。都心の大型デパートなどでは「獺祭はお一人様一本限り」と言って本数制限されるほどです。今も、受注を頂いても、原料不足で十分な生産量を確保できないため、すべてにお応えできない状態です。

 この危機に瀕して、私たちは燃えています。

 これまでは、必ず棚に並んでいて、お客様が飲んでみて旨かったから次も買って頂くかたちで酒を売っていくのが私たちの信条でした。つまり、「“幻の酒”だから」「手に入らないから買おう」といった軽薄で移り気なお客さんでない、ファンになってくれるお客様を育てようとやってきたのに、いつの間にか売り場から消えて幻の酒になってしまった。否応なく酒蔵としての商売のスタイルが変わっているので、元の体制に戻せるよう慎重に対応したいと思っています。

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桜井博志 [旭酒造株式会社 代表取締役社長]

1950年、山口県周東町(現岩国市)生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代の1770年創業。1973年に松山商科大学(現松山大学)を卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て76年に旭酒造に入社したが、酒造りの方向性や経営をめぐって先代である父と対立して退社。79年に石材卸業の櫻井商事を設立して集中していた。父の急逝を受けて84年に家業に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建をはかる。社員による安定的な旨い酒造りを目指し、四季醸造の実現や遠心分離機の導入など改革を進めた。2000年頃から始めた海外販売を本格強化するため、2014年のパリを皮切りに海外直営店を出店予定である。


山奥の小さな酒蔵、世界に挑む

純米大吟醸『獺祭』を展開する山口県の旭酒造。2012年度の売上高は25億円(前期比51%増)と10年間で約6倍に成長した。今年度の売り上げも、それをさらに58%上回る破竹の勢いで伸びており、青息吐息の日本酒業界にあって、数少ない勝ち組といえるだろう。3代目の桜井博志社長はしかし、現状に甘んじることなく、海外市場の掘り起こしを本格化させる。海外市場に打って出る狙いやその成長可能性、増産体制を整えるうえでの課題を聞いた。

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