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千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

~「巳」を食べる~
天高く蛇肥ゆる秋

千石正一 [動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹]
【第4回】 2007年11月28日
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 先日、同僚たちと中国料理の宴をもった。前菜に菊花があったのを見て、「後でヘビが出るよ」といったら皆が驚いていたが、香港か広州だったらジョークでも何でもない風習である。菊花は季節を象徴するから、重九の節句(陽数の重なる九月九日。旧暦なので十月になる)等にも使われるが、ヘビ料理にもつきものである。刺身のツマとかワサビのような存在だ。

 蛇羹(蛇肉の繊切りと鶏肉の繊切りとフカヒレのスープ)には菊の花弁をパラパラとふりかけるものだし、他のヘビ料理にも菊を使う。ヘビ肉はくせが少ないので、あらゆるジャンルの食材として利用されるし、特に南中国の人々には好まれる。他の食用動物よりも高く取引されるのもそれだけ賞味されているからである。

 菊花がヘビ料理の象徴になった背景には、一部の種類が臭気を発することがあるから、その匂い消しに使われたというようなのも考えられる。例えば、その名もシュウダ(臭蛇)などというアオダイショウの親類がおり、これがよく食用に利用されてもいるから、実用的な関係があったことは否めない。しかし前処理をすれば匂いなど気にならなくできるし、一般的にはヘビ肉は悪臭など無いから、菊花との結びつきは必然ではなさそうだ。

中国で見つけた「三蛇」の缶詰
「三蛇羹」の缶詰

 これはたぶん、季節つながりである。冬眠前のヘビに脂がのっているであろうことは誰でも思いつき、納得できる話だろう。日本では「天高く馬肥ゆる秋」というが、広州や香港ではヘビが秋のサインでもある。土用の丑の日の鰻の如く、秋にはヘビ食のポスターを見かけるようになり、それにこう書いてある――「秋風起矣、三蛇肥矣、滋補其時点」と。意味は、「秋風が吹き、三蛇に脂がのってきたよ。滋養をつける時期だよ」である。つまり秋だからヘビを食べよう、というわけで、秋を象徴する菊花と相乗効果をもたせた、と私は考える。

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千石正一 [動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹]

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。


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動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。

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