原田 でも、経済成長が一段落した今の中国、少なくとも北京や上海の大都市部は、日本とほぼ同じですよ。こないだ、上海で取材したフリーターの女の子なんかは、「職場の皆が仲良しで雰囲気もいいから、給料は上がらないけど、このままずっとここで働きたい」と断言していました。そういう子が増えているんです。今のソウルや台北などの東アジアの先進エリアも、同じような感じですね。みなが空気を読むようになった。一方、バブルの頂点付近にいるバンコクはまだまだエネルギッシュな若者が多くて、威勢よく「起業します!」と叫んでいました。

岸見 なるほど。しかし「空気を読む」というのは、別の言い方をすれば、「責任を取らなくてもよい」ということです。アドラーは、子どもたちが幼い頃から甘やかされることに警鐘を鳴らしているし、前回の話題に出た「親との関係がいい」ということも、見方を変えれば、「責任を取らなくてもいい生き方の選択」につながっていきます。自己責任を嫌い、親の意向通りに進学・就職・結婚までしてしまうわけですから。

【原田曜平×岸見一郎 対談】(中編)<br />ねじれた承認欲求が生み出す「嫌われたくなさ」原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、(株)博報堂入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。多摩大学非常勤講師。2003年JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。専門は若者研究で、日本およびアジア各国で若者へのマーケティングや若者向け商品開発を行っている。著書に『近頃の若者はなぜダメなのか』『さとり世代』などがある。

原田 空気を読む若者たちは責任を取りたくない、というのは間違いありませんね。たとえば、リーダーを買って出るような行動も、回避される傾向にあります。驚いたのが、最近の若者の合コンには、はっきりした幹事役がいないそうなんですよ。かわいい女の子やノリが良くて気の利く男の子たちをそろえられなかったら、自分が責められるから。そういった事態は避けたい。ヤンキーの話でいうと、昔のヤンキーには番長というリーダーがいましたが、今のマイルドヤンキーにそういうポジションは少なくなっているようです。

岸見 皆が対等だというのはアドラーの目指すところではありますが、誰もリーダーになろうとしなければ、誰も責任を取らないという意味で「無責任」ということになりますね。

原田『ヤンキー経済』のなかでは、僕の同級生で、残存ヤンキーをまとめるリーダー役をしているヤンキーを紹介しましたが、彼はもう37歳ですよ(笑)。なぜそんな年でやっているのかというと、若い人にそういう人がいないから。若いヤンキーたちは無責任を決め込んで、リーダーを買って出てくれている彼に乗っかっているわけです。