STAP細胞を巡る問題で、理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーが2014年4月9日の会見で、「STAP細胞の作製に200回以上成功している」と述べた。この発言に対し、日本分子生物学会副理事長・九州大学の中山敬一教授は、NHKの取材に次のように答えた。
「作製に成功したというには、すべての証拠を示し正確な論文として発表する必要がある。こうした手順が踏まれていない中では、成功したと言っても、科学者の世界では信用できる話ではない」
また、小保方リーダーは会見で「本物の画像については調査委員会に提出した実験ノートにも記載してある」と話したが、中山教授は「実験ノートに記載されていたとしても、それが第三者が見てわかる形で書かれていなければ、十分な証拠とはいえない。日付などの基本的な情報とともに、自分だけでなく第三者にもわかるように実験ノートを書くことは科学者としての基本。疑いを晴らすためにはコメントを発表するだけでなく、実験ノートなどを可能なところだけでも公開することが必要だ。ネイチャーに発表した論文の部分はすでに公開できるはずで、そうしない限り、科学者から信頼されることはない」と断じた。
4月19日、理化学研究所は埼玉県和光市にある研究施設を一般公開した。そこで大人気だったグッズも「実験ノート」。945円のノートが飛ぶように売れ、用意していた900冊があっという間に完売した。
そこまで話題、そこまで人気の「実験ノート」だが、そもそも科学者・研究者として信頼されるための「実験ノート」とはどのようなものなのだろうか? すべての理系学生、研究者はもちろん、文系ビジネスパーソンにも役立つ「正しい実験ノートの書き方」について、改めて九州大学・中山敬一教授にレクチャーいただこう。(構成/ダイヤモンド・オンライン編集部)
九州大学大学院 医学系研究科 生体防御医学研究所 分子医科学分野 主幹教授。専門分野は細胞周期制御におけるタンパク質分解機構の研究。1961年生まれ。1986年、東京医科歯科大学医学部医学科卒業。1990年3月、順天堂大学大学院医学研究科修了(医学博士)。同年4月より理化学研究所フロンティア研究員を経て、12月よりワシントン大学医学部ポストドクトラルフェロー。1995年7月より日本ロシュ研究所主幹研究員。1996年10月より現職。著書に『君たちに伝えたい3つのこと』(ダイヤモンド社)などがある。 九州大学 生体防御医学研究所 分子医科学分野ウェブサイト
第三者が追跡できるものが
証拠になる
ノートというのは、自分の「備忘録」としての役割もありますが、それだけではありません。先日のNHKの取材でお答えしたとおり、科学者にとっての「証拠」とは、第三者が追跡できるものでなければいけません。
追跡できるというのは、平たく言えば「第三者が見てわかるもの」ということ。つまり、
・走り書き、字が読めないなど、他人が解読不可能なのもの
・日付などの基本的な情報が曖昧である
・手順や前後関係が不明で、第三者が再現きないもの
・実際の実験内容とは異なるもの(いわゆる捏造も含め)
は、当然のことながら「証拠」になり得ません。
ビジネスパーソンが議事録を上司に提出する際のルールと同じだと思います。読めないもの、内容が理解できないもの、嘘はダメ。研究の世界ではこれらに加え、「再現性」というのも重要な要素と言えるでしょう。