食べ過ぎはエネルギーを消費する“善玉”褐色脂肪細胞(BAT)を窒息させるようだ。米ボストン大学の研究から。

 ほ乳類は、余分のエネルギーをため込む白色脂肪細胞(WAT)と、エネルギーを消費するBATの2種類の脂肪細胞を持っている。BATの熱産生量は、通常の発熱組織である筋骨格の70~100倍。これまで新生児にのみ存在すると思われていたが、近年、成人後も鎖骨近辺、胸回りに分布していることが分かっている。

 BATが熱産生でエネルギー消費を促進し、痩せ体質を生むのに対し、WATは中性脂肪を蓄積し、肥満を招く。実際、標準体重の成人のWATは約400億個だが、肥満成人では800億個に倍増し、1個1個の細胞も肥大していく。一方のBATは肥満により、逆に機能不全に陥る。そのメカニズムは長らく不明だった。

 今回、研究グループは「食べ過ぎ肥満マウス」のBATを精査し、食べ過ぎ状態ではBATの周りの毛細血管が消失し、BATが“窒息”することを突き止めた。その結果として、BAT内の火力発電所である「ミトコンドリア」の熱産生機能も衰える。しかも、最終的にBATが“白色化”し、肥満を招くWATに転じるというのである。

 本来、ヒトの細胞は低酸素状態下で「VEGF」という血管新生タンパクを産生する。自ら新しい毛細血管を作り、血行を回復させる機能を持っている。しかし、食べ過ぎ・エネルギー過多状態では、BATの血管新生機能が損なわれるらしい。実際、窒息しかけているBATに人為的にVEGFを入れると、文字通り「息を吹き返す」様子が観察された。

 一方のWATはタフである。低酸素状態を物ともせず、VEGFを作り、周囲に血管網を張り巡らせる。栄養も酸素もたっぷりとなれば肥大化へ一直線。抗肥満効果を期待し、単純にVEGFを投与しても肥満を助長する恐れがあるワケ。矛盾の解決は難しそうだ。

 ともあれ、すでに肥満黄信号の方は、それ以上BATを殺さないよう過食をやめること。自分の息の根を止める前に。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)