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アマデウスたち

伊藤 乾
反射的な狂気の再生産を封じる

週刊ダイヤモンド編集部
【第4回】 2007年11月2日
著者・コラム紹介バックナンバー
伊東 乾
写真・加藤昌人

 強い視線の先に、人間の狂気を捉えて離さない。気づきに先立ち表出する、反射的な狂気。焙り出し、晒し、覚醒させ、自動的再生産を封じる。自我の根底に横たわるなにかに、突き動かされているかのようだ。

 『さよなら、サイレント・ネイビー』では、東京大学理学部物理学科時代の友人で、地下鉄サリン事件の実行犯となった豊田亨被告の沈黙を代弁するように、常識的な秀才たちにすら、なぜマインドコントロールが染み込んでいくのか、独特の視点で核心に迫った。

 また1936年の2.26事件に端を発し、第2次世界大戦に至る数々の戦争になだれ込んでいく日本帝国主義に相似形を捉え、現代社会への連鎖を警告し、失敗すれば無言で責任を取ることを潔しとする腹切り文化との決別を呼びかける。

 年明けには、イラク増派に備える米国の陸軍基地を訪ねた。機械的な反復によって、殺人の反射神経が養成されていた。かの友人は地下鉄に乗り込む前、液体の入ったビニール袋を何度も何度も傘で突き刺す訓練を積まされた。まったく同じだった。

 父は学徒出陣で満州に渡り、強制収容所に抑留された。母の体は空襲でケロイドだらけだった。父が亡くなる直前に6歳の息子に打ち明けた戦争の生々しい記憶は、「遺言のように刷り込まれた」。「音楽は戦時下に狂気を助長した共犯者」。その贖罪(しょくざい)から再出発する。

 異彩の音楽家の誕生日は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトと同じ1月27日だ。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子) 

伊東 乾(Ken Ito)●作曲家・指揮者。1965年生まれ。故松村禎三、故レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに師事。第1回出光音楽賞など受賞。2000年東京大学大学院情報学環・作曲指揮・情報詩学研究室助教授に就任。2006年『さよなら、サイレント・ネイビー』で第4回開高健ノンフィクション賞受賞。2007年4月より東京大学准教授、東京藝術大学非常勤講師。

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