経営者と会計&ファイナンスの関係性に迫るシリーズ5人目のゲストは、山梨県甲府市に本社を置くジュエリーのデザイン・製造・販売を行う株式会社ラッキー商会の社長、望月直樹氏です。
あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座』の著者、田中慎一氏が、「知る限りで最高のオーナー企業の経営者の1人」という望月氏の経営手法とマインドに迫ることで、中小企業経営の成功のヒントを抽出します。

会社を継ぐ条件は、父には完全に引退してもらうこと

田中 まず望月さんの会社を簡単にご紹介いただけますか。

使命感で会社を継いでも成功しない望月直樹(もちづき・なおき) 株式会社ラッキー商会・代表取締役社長。 1975年生まれ。株式会社パソナを経て、株式会社リクルート・マーケティングソリューションDIVにて勤務したのち、2004年より現職。 早稲田大学大学院修了。趣味はゴルフ、トライアスロン。

望月 はい。私が経営している会社は、「ラッキー商会」というジュエリーのメーカーになります。創業してから今年で77年目を迎えています。基本的に百貨店やショッピングモールに出店している小売店さんに製品を卸しています。いまの年商が約25億円になります。

田中 ラッキー商会の社長として3代目になるとのことですが、お父様から会社を継がれるまでの経緯を簡単に教えてください。

望月 私は、大学卒業後、新卒でパソナに入り、その後、中途採用でリクルートに転職しました。私が28歳で結婚するとき、当時64歳だった父から急に「結婚はいいけど、会社を継がないか?」と打診されまして。そこで私が会社を継いでから今年で11年目になります。私が引継いだ当時は卸事業の売上が急激に下がっていました。時代の変化を受けて、業界内の倒産も相次いで起こっているという厳しい状況だったんです。

田中 そんなに厳しいタイミングで、あえて3代目の社長を引き受けたんですか?

望月 ピーク時の売上は38億円ありましたが、不渡りも多かったんですね。父も「このままじゃまずいな」と考えていたようです。一方、私は、リクルートでの仕事に満足していたので、非常に悩みました。特に、ワンマン社長でやってきた父に対して「本当に俺に譲る気があるのか」と半信半疑な気持ちがあったので、自分が引継ぐにあたっては、父には完全に引退してもらい、経営は自分の好きにやらせてもらう、という条件を付けました。

田中 実は、一夜にして社長が入れ替わるというのは、成功している事業承継に共通しているパターンですよ。

望月 ジュエリーのビジネスに関しては、実は父が一代目なんです。祖父が会社を創業したとき、もともとは判子の商売をやっていました。当社の本社がある山梨県では水晶が採れていたので、それを研磨するというジュエリー加工業が地場産業なんです。今では水晶が採れなくなりましたが、伝統の中で培ってきた水晶の研磨技術を現在でもジュエリーのビジネスに活かしています。ジュエリーの工場をつくったのも父の代になります。

田中 望月さんは5人兄弟の末っ子とのことですが、その末っ子を後継者に指名したお父様の意図を聞いたことはありますか?

望月 2人の兄がいて、長男は経営コンサルティングファームのパートナーだったんです。また、父は自分がやってきたことと違うことをしていかなければ会社の将来はないと考えていたみたいです。その点、兄は父とよく似ているんです。そして、次男は医者になりましたから、必然的に私にお鉢が回ってきたという感じです。