ゼロから起業し、エスグラントは上場を果たしものの、リーマンショックにより全財産を失い破綻、その後再びゼロから起業、成功させた若き経営者が心に刻んだ教訓を綴った『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』の出版を記念して、第2章を順次公開。上場を果たしてまさに人生の絶頂にあった著者の視界に暗雲が漂い始めます。第3回はリーマンショック前夜の金融業界。

天気も金融市場も
思い通りには動かない

 ただ、個人的に気になる「警告」は耳にしていた。サブプライム危機が報じられる前、まだ桜の花びらが歩道の傍らに散り残っている頃だった。ファイナンシャルのブレーンであり、親しくしていた投資銀行の友人が「会社を辞める」と訪ねてきた。

「ヘッドハンティングでもされました?」
 社交辞令にも似た私の言葉にも、彼は硬い表情のままだった。
「次の仕事は、金融とは少し距離を置きます」

 意外だった。
「どうして?」
「杉本さん、サブプライムローンは知ってますか?」
「ええ、もちろん。アメリカの低所得者向けローンでしょ」
「そうです。あれは、はっきりいって乱脈融資です。誰もまともに審査なんてしていない。銀行はローンを証券化して売り抜ければいいと考えている」

「ああ、そうらしいね」
「あり得ないですよ。結局、責任を取らされるのは証券化された債権を買った機関投資家だ。そこに流れる金のなかには、アメリカのサラリーマンや公務員が30年働いて稼いだ血と汗と涙が詰まった金だってある。いいですか、杉本さん。2年以内に世界的な金融危機が起こると私は予想しています。それをわかったうえで、自分が納得できない金融商品を売り続ける今の仕事を、もう続けることはできません」
「そこまで事態は深刻なんですか……」