現代人はビジネスや生活の場であふれかえるほどの大量の情報に触れ、そのなかで重要な意志決定を下している。集中力を保ち、正しい情報を選択し、最良の意志決定をする方法はあるのか? この問題を長年研究している英国在住の経済学者ノリーナ・ハーツ氏が、『情報を捨てるセンス 選ぶ技術』(講談社・原題は『EYES WIDE OPEN』)を発刊した。ハーツ教授が考える、情報氾らん時代をスマートに生きる術を聞いた。(取材・文・撮影/大野和基)

ノリーナ・ハーツ
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ教授。ケンブリッジ大学国際ビジネス経営センターのアソシエイト・ディレクター。経済学者として教鞭を執る傍ら、多数の企業の経営コンサルタントとして活動。世界経済フォーラム、TEDにも登壇。英国内外のメディアにも執筆・発言中。Photo by Kazumoto Ohno

――メールやインターネットがなかった何十年も前と比べると、今はますます意思決定がはるかに難しくなったように思いますが、何がそうさせたのでしょうか。

ノリーナ・ハーツ(以下・ハーツ):1つには、今日我々がさらされている情報は昔と比べると指数関数的に多くなっていることが挙げられます。例えばニューヨーク・タイムズ紙に掲載される1日分の情報は、17世紀ならば一生分の情報に相当します。

 今は、メール、携帯メール、フェイスブック、ツイッターなどいろいろなコミュニケーション媒体がありますが、それらは意思決定にはあまりよくありません。生産性から見ればマイナスです。マイクロソフトが実施した興味深い調査があります。メールによってやりかけの作業が一時的に中断されると、元の集中レベルに戻すには、平均22分かかることがわかったのです。

情報の洪水の中にいると
生理学的反応が表れる

 また、このように絶えず注意を散漫にさせられる状態に置かれると、生理学的な反応が表れます。ストレスに敏感に反応するホルモンであるコルチゾールのレベルも、ストレスレベルも上がります。アドレナリンが絶えず放出されている状態は体によくありません。こうして情報洪水の状態と、絶えず注意を散漫にさせられる状態が重なって、意思決定を難しくしています。

 さらに、もしあなたがビジネスリーダーや政治リーダーであれば、ウクライナ情勢、中東情勢など、地政学的にも緊張が高まっているので、意思決定はますます難しくなっています。

――今言われたように集中を妨げるものが多いので、物事を深く考える方法を知らない人も多いと思います。

ハーツ:まったくその通りです。私の世代は、どの本やジャーナルがリサーチに必要であるかを調べるために図書館に足を運び、そこで自分で考えながら探さなければならなかった世代です。今は携帯でグーグル検索ができ、多くの情報を見つけることができます。我々はいかに脳を使っているかについて、考えることをやめてしまうという危険がそこにあります。