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「吉田調書」を正しく読み解くための3つの前提
「朝日 vs. 産経」では事故の本質は見えてこない
——社会学者・開沼 博

開沼 博 [社会学者]
2014年9月12日
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2014年9月11日、当初は非公開とされていた「吉田調書」が公開された。公開のきっかけとなったのは「所員の9割が命令違反で撤退した」という朝日新聞の記事である。その真偽をめぐり報道合戦は過熱し、残念ながら、調書を取り巻く議論は本質を見失っているのが現状だ。私たちは、吉田調書の公開をどのようにとらえるべきなのか。『「フクシマ」論』で衝撃を与えた社会学者であり、現在は福島大学で特別研究員を務める開沼博が語る。全2回。

報道合戦で事故検証の議論は退化した

 2014年9月11日、「吉田調書」が公開された。

 本来、非公開資料であったそれは、2014年5月の朝日新聞のスクープ以来、様々な話題を生み出してきた。大手メディアは、すでにそのコピー等を入手したうえで検証報道を進めているため、今後、どれだけ新たな事実が炙りだされるかは未知数だ。だが、吉田調書自体が、後世に残る重要な資料となることは間違いないだろう。

 その一方で、「どう読めばいいのか、何が論点なのかよくわからない」という声も耳にする。それもそのはずだ。約400ページにも及ぶ膨大な資料の大部分は、原子炉の構造や事故対応の方法等に一定の予備知識がなければ、その価値を判断しかねる極めてテクニカルな話である。

 事故当時の福島第一原発所長であり、2013年7月に亡くなった吉田昌郎氏が、当時の首相であった菅直人を「おっさん」と呼ぶなど、一般の人の関心を集める部分もあるが、それは議論の枝葉末節にすぎない。

 そのように「わかりにくい」が故に、メディアではわかりやすそうな部分を切り出して報じることも多かった。そこでは「隠蔽して逃げる悪 vs. それを懲らしめる正義の味方」や「朝日 vs. 産経」の二項対立など、吉田調書に限らず、機会があるごとにメディアで何度も再生産される「わかりやすい構図」が繰り返されてきた。センセーショナリズムに走り、その根本に迫ろうとするものは少なかったと言わざるをえない。

 結論から言うならば、私はこのような「逃げたか否か」「官邸・東電・現場の誰が本当のことを言っているのか」という「悪者吊し上げ型」の消費のあり方に大いに疑問を持っている。「吊し上げ」よりも重要なのは、この吉田調書からどれだけ新しい教訓を得られるのかということだ。しかし、現状の吉田調書を取り巻く議論は、新しい教訓を得るどころか、事故検証に関する議論を退化させているとさえ感じている。

 震災からそれほど時間が経たないなかで成し得たものとしては、それなりに価値のある事故検証をないがしろにし、その一部を切り取ってセンセーショナルに消費し尽くすさまには、いささかの生産性もない。この原稿を通して、そうした議論を少しでも是正できればと考えている。

 吉田調書の公開にあたり、私たちはそれをどう読むべきなのか。そのための前提を大きく3つ提示したい。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


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